糖尿病専門医・指導医 野見山崇 | 糖尿病についてのコラム

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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第09話】
守破離(しゅ・は・り)

剣道の教えに“守破離(しゅ・は・り)”という言葉があり、剣道に限らず学問や人生観においても、私が大切にしている言葉だ。この言葉は剣の道の修行の過程を示している。“守”は師匠の教えや型を守りそれを励行する事を表し、修行の初期段階を表現している。“破”は師匠の教えや型をあえて破り、自分流の新たな型を創造する次の段階を表し、“離”は自分の流儀や型を確立して師匠の許を去って自立する事を表している。私は幼い頃、剣の師匠から“剣道四段までは「守」、五・六段で「破」、七段以上で「離」となれる”と教えられた。つまり何か物事を修得するためには、修行の段階が必要で、先ずは正しい基本型を師匠の許で学ぶ事が重要であり、最初から自己流ではいけませんよということを説いている。素晴らしい教えである。糖尿病診療に守破離があるとしたらいかに表現されるであろうか。私流に考えると、専門医を取得するまでが“守”、専門医として論文の執筆や学会発表をして研鑽を積む段階が“破”、誰もが認めるオピニオンリーダーとして指導的立場を与えられたら“離”ではないかと思う。つまり、先人たちが築き上げた糖尿病学という道の基本型を修得した後、それを踏まえたうえで自己流の治療にアレンジすべきである。しかし、最近の糖尿病診療は“守”を飛ばして“破”や“離”にジャンプアップしているケースが多い。たまたま我流で行なった治療で一時的に血糖値が低下したケースを報告し、“学会のお偉い先生たちの考え方は間違っていて、俺のほうが良く分かっている”という方がいるが、950万分の1の確率である事を理解しているのであろうか。

このような“我流糖尿病医”を増やしてしまっている原因として、抗糖尿病薬が数多く市場に現れたことが挙げられる。私が糖尿病学の道に入ったときはスルホニル尿素薬とヒトインスリンであるRとNしかなかったが、この20年で抗糖尿病薬は爆発的に増え、特に経口薬の増加が著しい。経口薬は注射薬に比して敷居が低く使いやすい。薬剤の選択が増えることは患者さんにとって朗報であり、より多くの先生方に糖尿病診療をしていただけるのは有難い事であるが、先ずは血糖値をコントロールする事が重要である事をご理解頂き、糖の流れに準じた強化インスリン療法が糖尿病診療の基本型である事を忘れないでいただきたい。特に私が危惧しているのは“BOT崩れ”という常態だ。BOT(Basal-supported Oral Therapy)とは順天堂の先生方が考案した治療法で、持効型インスリンを1回注射し、経口血糖降下薬を併用するという方法である。英語になっているが和製英語で、日本発の治療方針だ。注射回数が減らせる事で患者さんの負担も少なく、有効な治療法である(図)。

Basal-Bolus療法からBOTへ変更


特に最近では持効型インスリンも数多く市場に出、バイオシミラーのインスリンを使用すればコスト面でも様々な経口薬との併用が可能となる。しかし、BOTをする事が素晴らしいのではなく、BOTは強化インスリン療法よりシャレたインスリン療法というわけではない。2型糖尿病の治療で、可能な限りインスリン注射量を減らすためにスルホニル尿素薬以外の経口薬を併用する事は体重増加を避ける意味でも有意義であるが、インスリン注射の回数を減らす事が患者さんへのExcuseになってはいけない。当科の若い医師も“インスリン3回も4回も打つのは大変ですよねっ!!”と患者さんに話している者がいるが、それは間違った考え方である。以前、同様の現象がインスリンのMIX製剤であった。私が若い頃は、入院中にR3回+N1回の4回注射している患者さんを、退院の時には50R2回注射にする事が進化系のように思っていた。その時師匠に“インスリンを3~4回打つ重要性を患者さんに説明し納得させられない者は本当の糖尿病医でない”と指導されたものだ。確かにMIX製剤では微調整が出来ないばかりか、朝打ったら必ず昼を定時に食べなくてはいけないという縛りがつく。4T study(N Engl J Med 2009; 361:1736-1747)の結果を10年以上前に予見していたかのような師匠のお言葉に感銘を受けると共に、私の糖尿病学の“守”は非常に恵まれた環境であった事に深く感謝する。また、MIX製剤同様に合剤にも注意が必要だ。抗糖尿病薬は微調整が重要であると共に、シックデイ対策といった事も考えなくてはいけない。闇雲に合剤にするのは避け、ある程度のフレキシビリティーを持たせたほうが治療しやすいのではないか。糖尿病診療はファストフードのコンボメニューではない。

BOT崩れに陥るもう一つの原因が、食後高血糖を見逃している事にある。そんな方は糖キング第06話をご参照いただきたい。また、食後も血糖測定をするのは億劫だとか、持続血糖モニター(CGM)は途中経過が分からないから困ると言う方のために、もうすぐFreeStyle Libreという画期的な血糖測定器が発売される。乞うご期待。

うすぐFreeStyle Libreという画期的な血糖測定器が発売される


https://abbottdiabetescare.co.uk/our-products/freestyle-libre

技術や機械、薬剤は日進月歩で進化している。しかし、物事を学ぶ姿勢や“守破離”と言う考え方、先人が築き上げた歴史の上に自らが立てている感謝の気持ちと基本型をまず修得することを忘れてはいけない。医局に属さない若い医師たちにもそれに気付いて欲しい。



<残心>COIって何ですの???
最近やたらと“COI”という言葉に重きが置かれています。COIとはConflict Of Interestの略です。コンフリクトは葛藤、インタレストは興味や関心と訳されます。つまり、研究の興味ある結果を発表するに当たって、葛藤せざるを得ない金銭的関係がありますか?ということで、研究費や講演料執筆料を頂いている企業の名前を挙げさせることです。当たり前のように出されていますが、そもそもそんな事問う事自体がおかしいのではないでしょうか。どんなにお金を積まれても、自分の夢と血と汗と涙の結晶とも言える研究結果を誰かのために発表しない事や結果を捻じ曲げる事は私には考えられません。また、日本のように国からの研究費が小額な上に、ごく一部の大学や研究所に偏って配分される国では、企業からの奨学寄附金なしに高価な機材や薬物を使用する基礎研究は実施不可能です。このような縛りを厳しくする事は、サイエンスの芽を摘むことになります。
最近の風潮として、COIが沢山書かれている人は悪人で、COIが真っ白な人は善人のような見られ方をしますが、果たしてそうでしょうか。COIが多い人はスーパースターでCOIが少ない人は凡人ではないでしょうか。つまり、COIに書かれている企業が多い人は沢山の仕事を依頼されている人で、少ない人は依頼が少ない人と認識できます。また、講演前にCOIのスライドを恥ずかしげにさっさと流してしまうのも間違っています。海外の先生方が、誇らしげに自らの集金能力をCOI提示でアピールしているのを見て、私も講演前に“当科は○○社の寄附講座バックボーンに研究を進めており、癌に関する基礎研究は○○社と共同研究という形でグラントを頂いています”と明確に説明しています。先日長野で講演した際、順天堂の同窓生のF先生から“野見山のCOIの説明は堂々としていて気持ちいい”と褒められました。やっぱり元同級生はいいところを観てくれているなと嬉しく思った次第です。新聞や雑誌で、講演料や執筆料を貰う事が悪いかのように報道されていますがそうでしょうか。野球選手の契約更改と同じで、貰っている人ほど良い仕事をしている事になるのではないでしょうか。
全国の先生方COIの開示の際、“俺はこれだけ仕事してるんだっ!どうだーっ!!”位の勢いでしませんか?また、新聞や雑誌者の皆さん、講演料や執筆料を許可なく報道する事は品が無いですが、百歩譲って横に、その内何円が税金として納められたかを明記して頂きたいと思います。サイエンスの未来のために。





残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬
【第52話】Dear ケレンディア
【第53話】高齢ダイアベティスの極意~キョウイクとキョウヨウ~

*文章、画像等を無断で使用することを固く禁じます。

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