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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第17話】
チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~

読者の皆様は覚えているだろうか。“ノスカールの悪夢”という事件を。私にとっては“カノッサの屈辱” と双肩を並べるほどの歴史的大事件だった。ノスカールⓇ(トログリタゾン)はわが国で開発された最初のチアゾリジン誘導体で、ビタミンE骨格を持ち、抗酸化作用も含めた様々なbeyondな作用が期待されたインスリン抵抗性改善薬である。重篤な肝機能障害(個人的には医師のチェックミスだと思っているが)があるというレッテルを貼られ、この世を去った悲劇の糖尿病薬である。私は留学中NOR1という大阪大学の大倉永也先生が発見された転写因子の研究をしていた。様々なチアゾリジン誘導体を血管平滑筋細胞に振りかけてみたが、唯一抑制作用があったのがトログリタゾンであった。私はさすがmade in Japan!と思い、どや顔でボスにその結果を見せたが“その薬、発売中止でグラント取れないから実験中止”とあっさり言われ、涙をのんだ、、、。

あの悪夢以降、チアゾリジン誘導体は危険な薬剤、核の中とか触るものではないという風潮が流れ、のちに現れたアクトスⓇ(ピオグリタゾン)は発売当初敬遠された。しかし、大逆転が起きたのはPROactive(Dormandy JA. et al.: Lancet,366,1279,2005.)という試験の結果だ。ピオグリタゾンが脳卒中、心筋梗塞の再発や総死亡を有意に抑制したのだ。第10話で取り上げたEMPA-REG OUTCOMEⓇより10年も早くピオグリタゾンはイベント抑制の結果を出している。まさに最初のbeyondな糖尿病薬といえる。PPARγという核内受容体をターゲットにしているチアゾリジン誘導体は、脂肪細胞の分化誘導によってインスリン抵抗性を改善するのみならず、血管構成細胞にも直接的に働いて血管保護作用を惹起する、多機能血管保護薬といえる。

チアゾリジン誘導体の血管保護作用

また、血中のアディポネクチン濃度を上昇させ、それによる血管保護作用も期待できる(Yasunari E, et al. J Diabetes Investig 2;56-62, 2011)。現在までに、アディポネクチンの上昇とHDL-Cの上昇をヒトで十分に証明できている糖尿病薬はチアゾリジン誘導体とSGLT2阻害薬であり、両者ともに心血管イベント抑制の報告があることは興味深く、糖尿病患者における心血管イベント抑制の重要なポイントになっている可能性がある。
しかし、チアゾリジン誘導体に順風満帆な日々は続かなかった。海外で発売されているロシグリタゾンが心不全を増やし、ピオグリタゾンが膀胱癌を増やす可能性が報告された。前者はロシグリタゾンに限った話であり、米国糖尿病学会/米国心臓病学会のコンセンサス・ステートメントではNYHAⅡまでは問題とならないことが明記されているにも関わらず、Pickyな保険診療は心不全の病名があるだけで、査定をしてくる。また、膀胱癌についても、各地域で再検討され可能性は完全には否定できないという程度まで緩和されたにもかかわらず、いまだに問題視する風潮がある。そもそもチアゾリジン誘導体は細胞の分化誘導を促進する薬剤であり、がん化とは正反対の細胞誘導のはずである。

チアゾリジン誘導体:癌化と分化

この件に関してはTseng CH先生が台湾のデータベースを用いた論文をたくさん書かれているのでご参照頂きたい。

そうこうしているうちに、インクレチン関連薬やSGLT2阻害薬が登場し、アクトスⓇはジェネリックが発売され、製薬メーカーや臨床医の注目はチアゾリジン誘導体から離れ忘れ去られた。まるで、昔のアイドルグループ達のように。不思議なのは、安全性が認められないと声高に歌っていた方々が、ジェネリックが出たら安全性はおろか有効性すら検討されていないジェネリックを使うことだ。個人的な意見だが、アクトスⓇは究極のバランスを保ったPPARアゴニストであるため、ジェネリックに変更すると効果がなくなる可能性があることを付け加えておきたい。

もうチアゾリジン誘導体はこのまま日の目を見ないで、忘れ去られていくのか、、、。ところが、新たな希望の光が差してきた。何とチアゾリジン誘導体が、認知機能を改善する可能性があることが報告されつつある(Perez MJ, Quintanilla RA. PPAR Res 2015:957248.)。

チアゾリジン誘導体の認知機能改善作用

最近、糖尿病と認知症はがんと並んで重要な問題になっている。糖尿病薬として開発された薬剤が、糖尿病学から忘れ去られた頃に、糖尿病の難敵を克服してくれる薬剤となるかもしれない。何という美しく健気なリベンジであろう。
一連のチアゾリジン誘導体をめぐる事件から、我々はいくつかの教訓を得た。まず、薬の安全性は処方した主治医自らが確認しないと、素晴らしい薬剤をこの世から失い、多くの人を(患者さんを中心に)悲しませるということ。次に、大規模臨床試験や世間の流れにばかり目を向けていると、薬の本質を見失うということ。そして、薬には臨床上(薬価収載上)の主目的である効果以外にも多種多様な作用があり、それを研究することで将来臨床上の重要な問題を解決できる可能性があるということだ。しかし、完璧な薬はこの世にない。私はアクトスⓇを使用する場合、浮腫に気を付けて7.5mgという少量から、体重増加を抑えるためにメトホルミンを投与したうえで(Kawai T, et al. Intern Med 47:1181-8, 2008)乗せるようにしている。





<残心>不要の要
今年も医師剣道大会に参加してきました。最近稽古不足だったにもかかわらず、調子が良くて優秀選手賞を頂きました。
今年の大会は高知県で行われ、幕末の志士たちの息吹が感じられる素晴らしい大会でした。大会後、妻とレンタカーを借りて四万十川周辺をドライブしていると、沈下橋という興味深い橋を見つけました。川が増水すると沈むために命名された橋なのですが、この橋なんとガードレイルが無いんです!道幅は十分車1台通れるのですが、ガードレイルが無いだけで、落ちるのではないかという不安に駆られながらの運転になりました。例え、そこにガードレイルがあってもお世話になるはずはありませんが、橋にガードレイルが無いだけで不安なドライブになります。その時、神奈川県の範士 小林英雄先生から教えて頂いた“不要の要”という言葉を思い出しました。通常不要と思われるものでも、実は重要な役割をしているものです。ガードレイルに助けられることがなくても安心して運転するためには必要なのだと学びました。糖尿病診療における不要の要は何でしょうか?これから考えたいと思います。








残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
・・・次回「糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話」 2017年11月15日頃公開予定

*文章、画像等を無断で使用することを固く禁じます。

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