糖尿病専門医・指導医 野見山崇 | 糖尿病についてのコラム

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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第35話】
SGLT2阻害薬 For what?

私は今まで、あえてこのテーマから距離を置いて来たのかもしれない。第10話でEMPA-REG OUTCOMEⓇに軽く触れ、第19話でClass effectかDrug effectかというテーマにしてお茶を濁してきた。それはこのテーマに直球勝負で意見することに対し、四戒(驚、懼、疑、惑)を抱いていたからだ。しかし今、自信を持って言える。SGLT2阻害薬は凄い薬だ!
SGLT2阻害薬は発売当初から逆風の真只中に立ち続けてきた。尿糖を増やすとは何事だ!脱水で脳梗塞が激増するに違いない!といった非難を浴び続けた。しかし、冷静に考えればどの薬剤も治験を経て世に出回っているのだから、驚くような大惨事になるはずがない。群集心理は恐ろしいものだ。わが国最初のSGLT2阻害薬イプラグリフロジン(スーグラⓇ)が臨床応用された頃、ベーリンガー・インゲルハイム社の担当者と“エンパグリフロジン(ジャディアンスⓇ)が発売される頃にはSGLT2阻害薬が全面発売中止になっているかもしれませんね”と苦笑したことを覚えている。しかし、第1019話で紹介したEMPA-REG OUTCOMEⓇ以降SGLT2阻害薬は一気にスターダムにのし上がった。その後、多くの大規模臨床試験でSGLT2阻害薬の心保護作用・腎保護作用が明らかにされ、最近では非糖尿病者に対しても、心不全や慢性腎臓病の病名で保険適応を取得するSGLT2阻害薬も現れた。SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬の枠を超えたのだ。SGLT2阻害薬がここまで素晴らしい心腎保護の結果を出せた背景に、心腎連関の改善というメカニズムの存在が示唆されている(Mebio 34:58-66, 2017)。糖を尿に捨て血糖を下げ、浸透圧利尿で余剰な水を捨てるのみならず、ナトリウム再吸収も抑制するためmacula densaに流れ込むナトリウム量を増やして糸球体内圧を下げている。我々はスーグラⓇ発売当初から逆風に立ち向かい、FUSIONという臨床研究を行った(Endocr J 2018 Aug 27;65(8):859-86)。この時、SGLT2阻害薬が患者背景に関わらず血糖降下作用を発揮するということのみならず、血圧低下、体重減少、血清CPRの低下という副次的作用も見出した。

SGLT2阻害薬の多彩な作用@第35話 SGLT2阻害薬 For what? 野見山崇

この研究において、頸動脈IMTに変化は認められなかったが、脈波伝播速度(PWV)が改善していたことから、SGLT阻害薬は動脈硬化を改善しないが、おそらく容量負荷を軽減することで血管の硬さは改善するとディスカッションに書いたのが仇となった。最終的に日本内分泌学会の主催するEndocr Jという雑誌に拾って頂いたのだが、最初に投稿した某雑誌では“EMPA-REG OUTCOMEⓇで心血管イベントが抑制されているのに動脈硬化が改善しないはずないだろう!”と門前払いを食らったのだ。ところが、それから数年の月日が経ち、順天堂大学と大阪大学のグループが行ったUTOPIAという研究は、SGLT2阻害薬を用いて我々と矛盾しない結果を一流紙に報告している(Cardiovasc Diabetol. 2020; 19(1): 110)。我々は早すぎたのだ。さらに基礎研究においても、SGLT2阻害薬がDPP-4阻害薬とコラボして、著明な高血糖になる糖尿病モデルマウスでの血管肥厚を抑制することも報告した(Biochem Biophys Rep 2019 Apr 19;18:100640)。

DPP-4I + SGLT2I 新生内膜形成への影響 db/db mice@第35話 SGLT2阻害薬 For what? 野見山崇

SGLT2阻害薬が著明な脱水を引き起こす可能性が危惧されていたが、発売後幾度の猛暑を経験してもSGLT2阻害薬で熱中症や脳梗塞が増えたという報告を耳にしない。最近の報告では、SGLT2阻害薬が糖と共に尿中に排泄する水は、利尿薬のような血管内の水ではなく浮腫みの原因とも言える、サードスペースの水であるとう見解も報告されている。そういえば私も、SGLT2阻害薬フォシーガⓇのサンプルを1錠頂いて飲んだ翌日、二日酔いの顔の浮腫みがスッキリしていたことを経験している。

SGLT2阻害薬はサードスペースの水分を抜く@第35話 SGLT2阻害薬 For what? 野見山崇

昔の学園ドラマで不良少年が少しずつ善行を重ね、更生しクラスの人気者になる姿を見るように、SGLT2阻害薬は糖尿病界の嫌われ者から救世主になりつつある。
SGLT2阻害薬の快進撃はここで終わらない。最近ではがんに対する有効性も基礎研究を中心に報告されている。我々はイプラグリフロジンが乳癌を抑制することを世界で初めて見出し報告した(Endocr J 2020 Jan 28;67(1):99-106)。当時福岡大学に在籍され、現在秋田大学の教授に就任された沼田朋大先生にパッチクランプを施行して頂き、ナトリウム流入抑制による膜電位の過分極とそれに伴うミトコンドリア膜電位の変化が重要なメカニズムであることを解明して頂いた。

SGLT2阻害薬の乳癌抑制メカニズム@第35話 SGLT2阻害薬 For what? 野見山崇

さらに、SGLT2が肺癌細胞に発現しており、SGLT2阻害薬カナグリフロジン(カナグルⓇ)が肺癌細胞増殖を抑制することも見出し報告した(Diabetol Int. 2021 Feb 16;12(4):389-398)。GLP-1の次はSGLT2阻害薬とがんですか?と周囲に言われ、自分でもかなり歌舞いた研究をしていたつもりであったが、実はそうでもなかった。同様にSGLT2阻害薬のがん抑制作用を解明した研究が数多く報告されている(Rev Endocr Metab Disord. 2021 Jul 17. doi: 10.1007/s11154-021-09675-9)。なかには臨床応用に向けて抗がん剤との併用療法を検証している研究結果もある。まさに電光石火、世界ではものすごい速さで研究が進んでいる。ところで、第19話でSGLT1・SGLT2の選択性について触れたことを覚えているだろうか。興味深いことに、カナグリフロジンをはじめとした第19話で選択性が低いとされたSGLT2阻害薬のがん抑制作用の研究結果が数多く報告さえている。もしかしたら将来的に、SGLT2阻害薬の中でも安全性、心腎保護作用に優れているものと、がん抑制作用に優れているものという使い分けがSGLT1・SGLT2の選択性をもとになされる日が来るかもしれない。
SGLT2阻害薬が発売された当初“こんなものは糖尿病の薬じゃない!”と言われた先生が居られた。その先生のご意見は至って正しい。SGLT2阻害薬は糖尿病“だけの”薬ではない。糖尿病、心血管イベント、腎臓病、がんといった昔で言う“成人病”を様々な角度から改善してくれる薬かも知れない。第10話で書いた通り、大阪大学金井好克先生がノーベル賞を受賞されることも夢ではない。

<残心>痛快!屁振りへん左衛門
屁振りへん左衛門のお話しは、私の叔母・野見山悠紀子の十八番でした。若いころ甲状腺癌を患い手術をした叔母は独り身で、クチュリエ・ユキという小さなオートクチュールを天神で営んでいました。私は幼い頃、寝る前に叔母のオモシロ話を聞くのが大好きで、屁振りへん左衛門は最高傑作です。毎日オナラばかりしているぐうたら息子のへん左衛門にたまりかねた父親が、ある日へん左衛門のお尻に栓をします。するとある夜、その家に泥棒が入り、誤ってへん左衛門のお尻の栓を踏んで外してしまいます。一気にあふれ出たオナラのあまりの臭さに泥棒は捕まってしまい、へん左衛門の父親が“お前の屁も時には役に立つな~”と言うハッピーエンドです。もちろん完全な叔母の作り話ですが、最近小学生の姪っ子が“おしりたんてい”というアニメを見ていて、これぞ屁振りへん左衛門だ!と感動してしまいました。叔母は40年前におしりたんていの構想にたどり着いていたのです。また、このへん左衛門の話、役に立たない人間はいないという、今でいうダイバーシティーを表現していますよね。改めて叔母の凄さに感銘を受けました。
そんな叔母も、私が福岡を去り国際医療福祉大学に赴任した2020年4月に他界しました。野見山家一筋に生きた叔母に、心から感謝しご冥福をお祈りします。

おしりたんてい@第35話 SGLT2阻害薬 For what? 野見山崇












残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー

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