糖尿病専門医・指導医 野見山崇 | 糖尿病についてのコラム

医療人として | 糖尿病の治療について | 糖尿病についてのコラム | プロフィール

糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第40話】
糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント

学生や研修医に、糖尿病の教科書でお勧めは何ですか?と聞かれて、私はすかさず必ず“糖尿病治療ガイド”と答える。一般的な教科書や医学書は、出版社が独自に筆者を選び、執筆されたものを出版しているが、本誌は正真正銘糖尿病学会お墨付きのオフィシャルな教科書であり、これに反する内容は医師国家試験、内科専門医、糖尿病専門医、内分泌代謝専門医試験に出題されることは無いはずだ。そして、何といっても安価である。医学書は軒並み高価で学生時代購入するのに苦労をした経験があるが、本誌はたったの900円。千円未満で150ページ程の一冊に、糖尿病治療の王道が書かれている。その糖尿病治療ガイドが今年改訂された。2年ごとの改訂の度に厚みが増す本誌であるが、今回の改訂でも4ページ増えている。糖尿病学が膨大化している証拠である。

まず目につくのは、31頁の図6・糖尿病治療の目標が変わった点だ(第31話と比較参照)。前回は、糖尿病治療の最終目標が“健康な人と変らない人生”であったが、今回は“糖尿病のない人と変らない寿命とQOL”に変更されている。健康な人と変らないが、糖尿病のない人と変らないに変更になっている点は、深く同意できる。糖尿病があったら健康でいられないのか?では一体誰が健康と胸を張って言えるのか?という禅問答から脱却している。健康や健康な人の定義は非常に難しい。事実、私も健康か?と聞かれると大きく首を縦に振ることは出来ない。毎日仕事漬けの日々を送り、週末は会議や学会、趣味の剣道もほとんどできていない。テレビを見ながら晩酌している時も、気が付いたら仕事のことを考えている。慢性疾患がなくとも、こんな中年男性が健康とは言えないはずだ。一方、人生という言葉無くなったことには一抹の寂しさを感じている。血糖コントロール=人生設計というフィロソフィーを掲げてきた私にとって、人生という言葉は残してほしかった。また、アドボカシー活動的には糖尿病が“ある・ない”にこだわらない方がよいのではないか。私個人としては“患者自身が満足できる人生”を最終目標にしたい。Advocacy(アドボカシー)とStigma(スティグマ)が英語表記からカタカナ表記に換わっている。日本語で表現する際はAdvocacy(患者擁護)やStigma(負の烙印)というあいまいな和訳ではなく、アドボカシー・スティグマと直接的なカタカナ表記をすることが公認されたと言える。同ページに“合併症の抑制による最終目標達成には確実に近づいていると考えられる”という興味深くかつ感動的な文章が記載されている。皆の努力が集結し、狭義の合併症すなわち細小血管合併症による寿命やQOLの損失は抑えられつつあるということであろう。勝利宣言を出来る日が待ち遠しい。

糖尿病治療の目標@糖キング第40話 糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント 野見山崇

表ページを一つ捲って32頁、COLUMの“糖尿病に関わるスティグマとアドボカシー”の欄が約倍に膨らんでいる。アドボカシー委員会のメンバーの一人として非常に嬉しく思うとともに、糖尿病学会が今後重視する取り組みに責任を感じた。本稿の後半部分に、診療に用いられる言葉の問題が重要視して取り上げられている。我々が無意識に使っている医療用語にも、スティグマが潜んでいる可能が指摘されているのだ。“療養指示”など本誌に記載されている言葉以外にも、“教育入院”や“栄養指導”といった理不尽に上から目線の言葉に、私は以前から違和感を覚えていた。幸せな人生を送ることが目標であるなら、糖尿病の“患者教育”とは哲学を学ぶことなのか、幸せの価値観は千差万別ではないか。そもそも医療者の人生観を患者に押し付ける権利はないはずだ。なので、私は“教育入院しませんか?”の代わりに“合宿しませんか?”と患者さんに言っている。療養指導も療養が隔離や限られた生活を強いることを含み、指導が上から目線でスティグマに当たるとして、糖尿病協会が行っている“日本糖尿病療養指導学術集会”は今年から“日本糖尿病協会年次学術集会”に名称変更された。アドボカシーについて、下野大院長の企画編集の元、月刊糖尿病に執筆しているので、こちらもご参照頂きたい(月刊糖尿病#145 Vol.14 No.5, 84-91)。

40頁の表6・2型糖尿病の血糖降下薬の特徴に、第23話でフィーチャーしたイメグリミン(ツイミーグⓇ)が加わっている。ミトコンドリア機能を改善することにより、インスリン分泌能とインスリン感受性を改善する薬剤だが、血糖依存性のインスリン分泌促進系に分類されている。既報のデータから、ブドウ糖応答性のインスリン分泌促進による食後高血糖の改善がメインであると判断されたのであろう。令和4年9月1日で臨床応用1年を迎え、長期処方も可能となったイミグレミンが、日本発世界へのエビデンスを量産してくれることを期待する。また、前回もそうであったがこの表の一番右欄“主なエビデンス”の項目が私は好きだ。いわゆるBeyondな作用が、公的に認められ記載されている。我々が基礎研究で行ってきたがんに対する作用も、いつかここに記載される日を夢見てやまない。

その他、DiaMAT(Diabetes Medical Assistance Team)の項目が増えたことや、併存疾患(その他の合併症)が併存疾患だけの記載になったこと、低血糖の対応にグルカゴン点鼻粉末剤バクスミ―Ⓡが加わったことなどが変更点として挙げられるので、是非一度ご熟読いただきたい。最初にも述べたが、糖尿病治療ガイドは学会お墨付きの教科書である。キャッチーなコピーや可愛らしい絵と図表が盛り込まれている商業誌を読む前に、まずこちらを通読して頂きたい。特に若い先生方や学生諸君に強くお勧めする。第09話で取り上げた守破離という言葉の、糖尿病学における“守”が糖尿病治療ガイドと言える。

<残心>母校
12年ぶりに母校順天堂大学に戻りました。順天堂大学医学部附属静岡病院 糖尿病・内分泌内科 教授に令和4年8月1日から就任しました(糖尿病・内分泌内科 | 診療科・センター・部門 | 順天堂大学医学部附属静岡病院 (juntendo.ac.jp)。就任にあたりご尽力頂きました小川秀興理事長、新井一学長、服部信孝医学部長、綿田裕孝教授に厚く御礼申し上げます。また、推薦状をお書き頂いた柳瀬敏彦先生にも心から感謝致します。平成22年に福岡大学に移って以来、干支が一回りして寅年になっての順大復帰ですが、スムーズに違和感なく仕事が出来ています。また、妙に安心感もあり夜も魘されることなく眠れているようで、まさにホームグラウンドに帰って来た感覚です。今まで他大学で勤務し、無意識にアウェイな雰囲気を感じていたのでしょう。糖尿病患者さんが感じているスティグマってこんな感覚なのかな、ともふと思いました。12年前、福岡大学に移った時“どうせあいつはいつか順天に戻るんだ”と噂されたのを思い出しました。いま、その人達に言いたい、“言われた通り戻ったよ、教授として”と。ここからが糖キング“真・第二章”の始まりです。ということで、次回は当院の宣伝をさせてください(笑)
短い間でしたが大変お世話になりました、国際医療福祉大学の皆様に深く感謝申し上げます。













残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト

*文章、画像等を無断で使用することを固く禁じます。

医療人として | 糖尿病の治療について | 糖尿病についてのコラム | プロフィール

糖尿病専門医・指導医 野見山崇 | 糖尿病についてのコラム

関連した記事

[糖尿病]合併症がおきないようにしっかりと治療していけば、決して怖い病気ではありません。[甲状腺]めずらしい病気ではありません。しかし、発見しにくい病気です。[姪浜]海も近く、緑の多い。福岡中心部に近い人気の住宅地。市営地下鉄 姪浜(めいのはま)の駅のすぐそばにあります。[天神]福岡・天神北、「紳士服のフタタ」本社ビル7階。仕事と生活と文化の中心地にあります。カラダみがきプロジェクト

ご予約/お問い合わせご質問や不安なことがあればおたずねください。

092-738-1230天神(代表)

診察日の9:00~13:00 15:00~17:30

ques@futata-cl.jpお返事に時間を頂いてます。

携帯電話からメールでお問い合わせいただく場合のご注意。

二田哲博クリニック 姪浜 ホーム

理事長あいさつ
理念
特色
専門医と指導医について
資格について
カラダみがきプロジェクト
紹介リーフレットダウンロード
YouTubeチャンネル
糖尿病
甲状腺の病気
内科
セカンドオピニオン
姪浜
天神
ドクター
スタッフ
初めて受診される方
再診いただく方
お問い合わせ
よく患者さんから
ご質問いただくこと
知りたいことから探す
「逆引きインデックス」
臨時休診
お知らせ
採用情報(専用サイト)
リンク
ポリシー
アクセス
診療受付時間
サイトマップ

先頭へ