医療人として | 糖尿病の治療について | 糖尿病についてのコラム | プロフィール
糖尿病診療は何のために行っているのであろうか。血糖値やHbA1cを下げるためだけに行っているのではないことは確かだ。第40話でもふれた糖尿病治療の目標にあるように、糖尿病診療の最終目標は糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLを確保することである。従って、究極的には寿命とQOLを十二分に確保できるのであれば、血糖やHbA1cが多少高くても問題ないとも言える。また、合併症や併存症に加えて、その他多くのことが糖尿病と共に歩む人生には降りかかってくるはずだ。しかし、それらにいかに対応するかを科学的に正しく解説した著書は未だかつてない。第20話で取り上げた私の著書『糖尿病治療薬処方のトリセツ』では7章にそれらしいことを書いたが、その他メインは血糖降下作用を中心に書いている。“血糖とか実はあまり重要じゃないんじゃない?”という大胆な本を出す人がいないかな~と思っていたら、日本医事新報社の方からお声がかかった。血糖だけにこだわらないという趣旨の本を執筆しませんかと。そこで、昨年秋から構想が始まり、間もなく発刊予定なのがこちら“血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方”だ。
私編集執筆をご依頼頂いた当初、トリセツ同様に単著もしくは大部分を私が執筆し、私が専門分野ではない一部を他の先生にご依頼させて頂く形式を求められていたが、今後わが国の糖尿病診療を担っていくであろう仲間たちが“大御所”と呼ばれて頼みづらくなる前に、記念撮影的な一冊を残したいという思いから、基本的に同世代の先生方にご執筆をご依頼し、自身で執筆したのはGIP/GLP-1受容体作動薬の稿だけである。発売後、本書を手に取られ著者の先生方の顔ぶれをご覧頂いたら思わず失笑されるでしょう“野見山崇とその仲間達じゃないか!”と。
目次(予定)はこの通りである。まず1章は、日本糖尿病学会のアルゴリズムをふまえた治療方針を、実際にアルゴリズム作成に携わられた順天堂大学医学部附属浦安病院の佐藤博亮先生にご執筆頂いた。続く2章では、2023年現在わが国で臨床応用可能な糖尿病治療薬について、それぞれの薬剤に精通している先生方にご執筆頂いた。前述のとおり、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドについては、わが国でまだ十分な臨床経験やデータが無いので、治験の結果を中心に本薬剤に期待される作用を加えて私自身が執筆している。糖キング第44話や糖尿病ケア+(プラス)2023年6号(2023年11月発売予定)といった、私が他に執筆したチルゼパチドの稿と読み比べて頂けると幸いである。臨床応用から約半年が経ったチルゼパチドだが、個人的に有効性と安全性に非常に優れた薬剤であると実感している。今までの薬剤で十分な治療効果が得られず、セルフスティグマに陥っていた糖尿病患者さんたちが、自信を取り戻し笑顔で受診してくれるケースを数多く経験している。1日も早く生産ラインを増やし、供給が追い付くことを願うとともに、コスメ目的に適応外使用している医師に即刻投薬を止めて頂きたい。困っている患者さんが大勢いるというのに、医療者としてのプライドは無いのか!?
3章はいわゆるBeyondな作用を含め、糖尿病の合併症や併存症の発症進展予防のための治療戦略を、それぞれのエキスパートの先生方にご執筆頂いた。二田哲博クリニック姪浜院長の下野大先生にもサルコペニア・フレイルについてご執筆頂いた。超高齢化社会を迎え、いかに元気で動ける糖尿病のある高齢者を増やすかが我々の使命ともいえる。下野先生の稿で目を引いたのが、インスリン療法の可否である。同化ホルモンであるインスリンは、競技スポーツのドーピングの対象にもなっているが、サルコペニア予防のための筋量増量に働くとういう確固たるエビデンスは無い。今後の重要な研究テーマと言える。
4章は過去にない、新たな試みと自負している。“糖尿病患者が〇〇になったら”は実は、ザ・ドリフターズの名作コント“もしもシリーズ”にヒントを得た。糖尿病患者さんは常に血糖マネジメントを中心に生活しているわけではない。また、患者さんの周辺環境や嗜好を含めた生活のすべてを把握して、我々は人生の伴走者になる必要がある。“もしも糖尿病患者さんが大酒家だったら”は、私の最高の悪友に執筆して頂いたので、是非ご一読いただきたい。目からウロコが3枚くらい落ちるはずである。脂質異常症の稿は第45話でご紹介した兄貴こと三好秀明先生にご執筆頂いた。奇しくも本稿が三好先生の遺作になってしまったが、読んでいただいたらその熱量と内容の深さに感銘を受け、涙を流すであろう。
初めて編者として本の出版に携わった。一番嬉しかったことは、私がご執筆を依頼させて頂いた先生方の全員からご快諾を頂けたことだ。順天堂大学の学是「仁」が身に染みる(学是・理念・学風|順天堂大学 (juntendo.ac.jp))。この本がわが国の糖尿病診療の未来予想図になる事を期待している。10年~20年後の若手医師に“あのお爺さん先生たち昔からこんなヤバイこと考えていたんだ!”と言わせたい。
<残心>歩行者優先
静岡東部に移り住んで約1年になりますが、移住前に下見に来た時から感心していたことがあります。信号のない横断歩道の前に立っていると、直ぐに車が止まってくれることです。静岡の人は優しいなあと思っていましたが、地元の人に聞くと、静岡県警が歩行者妨害を厳しく取り締まっているからだそうです。その甲斐あって、過去10年間の歩行者事故は軒並み減少しています(hokousya.pdf (dsvc.jp))。しかし、それだけでしょうか。横断歩道のみならず、車の車線変更や右折もスムーズに譲ってもらえます。福岡でよく経験した“そげんせんでもよかろーもん”と思わず言いたくなるような意地悪な運転は見られませんし、クラクションを殆ど聞きません。歩行者妨害の取り締まりというルールと静岡東部の人の器質が融合し、優しい道路が出来ていると考えられます。天下の愚策と言われた第5代将軍徳川綱吉の“生類憐みの令”は、動物愛護や福祉の始まりとして市民の心を優しくしたという説もあります。ラッシュアワーに譲り合い渋滞が発生するのは少し困りますが(笑)、静岡東部は富士山と人の優しさに護られ穏やかに暮らせる街です。
【残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)
【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬
【第52話】Dear ケレンディア
【第53話】高齢ダイアベティスの極意~キョウイクとキョウヨウ~
【第54話】尿アルブミンは心血管の鏡
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