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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第37話】
経口GLP-1受容体作動薬

よもやよもやの薬の登場だ。ペプチドを経口投与できる時代が来るとは、誰が予想したであろうか。河盛隆造先生がトロント大学を訪れた際、チャールズ・ベスト先生に“日本ではどんな研究をしていたか?”と尋ねられ、“経口インスリン療法の研究をしていました(Diabetes 1975;24(11):971-6)”と答えたら、“貴重なインスリンを無駄遣いするな!”と烈火のごとく怒られたそうだが、いまこれが現実のものとなった。経口GLP-1受容体作動薬であるセマグルチド(リベルサスⓇ)は、世界初の経口ペプチド製剤であり、注射薬のGLP-1受容体作動薬セマグルチド(オゼンピックⓇ)と同じペプチドが経口投与されることによっても、血糖降下作用を惹起できる。通常、経口摂取されたタンパク質やペプチドは、胃酸によって立体構造が破壊され、消化酵素のプロテアーゼやペプチダーゼによって分解されてアミノ酸の状態で吸収されるが、リベルサスⓇは早朝空腹時に内服すると、SNACという物質の作用で、胃壁から吸収される。初めて聞いたときは“眉唾ではないか?”とか“胃壁の傷害が出るのではないか?”といった心配があったが、発売から1年が経過しても重篤な有害事象がなく、有効かつ安全に使われている。
本剤において、私が非常に興味深かったのは、セマグルチドが門脈内を通過するかどうかという点だ。皮下注射されたインスリンは、門脈を通らず血中の糖を筋肉や脂肪細胞といった末梢組織に吸収させることで血糖値を下げる。同様に、皮下注射されたGLP-1受容体作動薬も門脈を通らず作用しているはずである。

@第37話 経口GLP-1受容体作動薬 野見山崇

しかし、経口投与されたセマグルチドは門脈内のGLP-1作用を高めている。事実、図のようなカテーテルのシステムを犬に用いた実験結果によると、セマグルチドが胃で吸収され、脾静脈と門脈を通過することが確認されている(Sci Transl Med. 2018;10(467)eaar7047)。リベルサスⓇは世界初の経口GLP-1受容体作動薬であるとともに、世界初の門脈内で著明にGLP-1作用を高められる経口血糖降下薬とも言える。何故そんなに門脈内にこだわるのか。実は、あまり注目されていないが門脈内にもGLP-1受容体が発現しており、食欲抑制やインスリン分泌のセンサーとして脳と精密な回路を形成していることが分かっている。そして、門脈におけるGLP-1作用の減弱が2型糖尿病の病態に一つであることが、福岡で行われたライジングスターの会にゲストで御参加頂いたHorowitz先生らのグループから報告されている(Diabetes 2021;70:99-110)。リベルサスは経口薬だから使いやすいGLP-1受容体作動薬だけではないことがご理解いただけるだろう。

@第37話 経口GLP-1受容体作動薬 野見山崇

リベルサスを用いたPIONEER試験をまとめた最近の報告で、非常に興味深いデータを見つけた(Cell Rep Med. 2021;2(9):100387)。女性の方が、体重減少作用が高いのだ。

@第37話 経口GLP-1受容体作動薬 野見山崇

このデータを見た時、私は二つのことを思い出した。一つは私の学生時代、順天堂大学新井康允教授(現名誉教授)が脳の性差の中で食事に対する満足感にも差があり、女性は甘味に対する満足度のセンシングが男性に比べて高いと言われていたこと。もう一つはニューロン特異的インスリン受容体欠損マウスでは、メスの方が表現型は強く出ていたことだ(Science 2000;289(5487):2122-5)。経口GLP-1受容体作動薬は、門脈内のGLP-1センサーの謎を介して、人類最大の謎の一つである、男性脳と女性脳の違いをも解明してくれるのかもしれない。そして、経口インスリンの発売に繋がる可能性も示唆してくれている(糖尿病.2018:61(12):818-21)。

@第37話 経口GLP-1受容体作動薬 野見山崇

現在臨床応用されているGLP-1受容体作動薬の一覧を示した(糖尿病ケア 2021秋季増刊:62-66)。こうゆう状況になると“注射のGLP-1受容体作動薬と経口薬のGLP-1受容体作動薬はどちらがいいですか?”という愚問を聞いてくる人がいる。この質問をバスケットボールに置き換えると“八村塁選手と富樫勇樹選手はどっちが良い選手ですか?”というのと同じ質問である。どちらも良い選手だが、役割が違う。経口セマグルチドは、早朝空腹時に少量の水で内服し30分間待たなくてはならない。“週に1回時間を問わず皮下注射するお薬と、朝空腹時に飲んで30分待つお薬とどちらがいいですか?”と患者さんに問いかけることで、患者さんの価値観や生活様式が垣間見れる答えが得られることもある。また、“30分間何しましょうか?”というディカッションをするのも面白い。ニュースを見たり、新聞を読んだり、家族と会話をすることで、新しい発見をして頂くのはいかがか。勿論、糖キング二田哲博クリニックのホームページを見ることで、糖尿病の勉強をして頂いても良い。ただ“30分間飲食しないでくださいね”と言ったのでは、朝食抜きの悪習慣を作ってしまうことも危惧される。30分間の利用法を提案するところまでが糖尿病診療である。新しい薬が新しい診療の在り方も教えてくれる可能性がある。

<残心>4回転アクセル
2022年冬季オリンピックのフィギアスケートで、羽生結弦選手が人類初の4回転アクセルに挑みました。結果は回転不足でしたが、4回転アクセルに人類で初めて挑戦した事実は永遠に消えません。ショートプログラムでアクシデントに見舞われた羽生選手でしたが、4回転アクセルを諦め、フリーの構成を少し落として小さくまとめたら3位くらいにはなれたかもしれません。しかし、羽生選手は小さくまとめて演技を置きに行ってのメダルよりも、“人類初”の4回転アクセルへの挑戦を歴史に刻むことを選んだのでしょう。信念を貫いた羽生選手に感銘を覚えました。サイエンスの世界でも同じようなことがあります。誰もが予想でき納得できるような研究結果は、比較的波風立たずに想定範囲内のリバイスを受け、それに答えてアクセプトされます。しかし我々のような“糖尿病治療薬の癌抑制作用”なんてフェアリーテイルのような研究テーマはとことん叩かれます。私の最後の福岡大学大学院生である田中(藤村)由貴先生の論文は、7回のリバイスを打ち砕き、最近やっとアクセプトされました(Combined treatment with glucagon-like peptide-1 receptor agonist exendin-4 and metformin attenuates breast cancer growth | SpringerLink)。オリンピアンのように何度も挫けそうになったことでしょう(笑)。でも、100年後の人類がPubMedを検索した際に、“こっちの薬の方がHbA1cは良く下がる!”という論文と、“糖尿病の薬なのに抗癌作用に相乗効果がある!”という論文はどちらがインタレスティングでしょうか。私は2022年のメダルよりも、人類初の方がクールだと思っています。













残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある

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