医療人として | 糖尿病の治療について | 糖尿病についてのコラム | プロフィール
死の訪れない生命が無いように、別れの来ない出会いはありません。長い人生の中で繰り返される出会いと別れの中で、我々がすべきことは別れを悲しむことではなく、その人と過ごした時間に報いることができるようなその後の人生を歩むことでしょう。これは私が送別会に時によく語っていた“決めゼリフ”です。まさかこの言葉を自分自身が深く噛み締める日が、こんなにも早く来るとは思いませんでした。
北海道大学特任教授の三好秀明先生がご逝去されました。享年55歳の若さです。糖尿病学会の同世代の先生方の中で、三好先生は私が最も仲良くさせて頂いた先生のお一人で、兄貴的存在でした。糖キング第45話は三好の兄貴に捧げたいと思います。
私と兄貴が出会ったのは約10年前、某メーカーが開催したライジングスターの会というクローズドの研究会でした。いま見ると錚々たるメンバーがまだ40歳前後の頃、お互いの研究結果を持ち合いディスカッションするというワクワクするような楽しい会でした。私より三つ年上の兄貴は我々のまとめ役で、冬に開催されたときは北海道が大雪で大遅刻、本会に間に合わずともその後の懇親会には参加してくれて、皆を和ませてくれる存在でした。2013年に福岡で私が幹事で開催した時は大事件に巻き込まれたり、激しく飲んだ時には酔っぱらって眼鏡を無くす者がいたりと、胸襟を開いて話し合える最高の仲間たちです。ここにもう兄貴がいないのかと思うと、重い虚無感に襲われます。今年の糖尿病学会でも、ついついプログラムの中に兄貴のランチョンセミナーを探してしまい、名前が無いのに気づき“本当にもう居ないんだ”と痛感させられました。
沢山の研究結果を報告されてきた兄貴ですが、私が一番好きな論文は、食事療法を遵守した場合に限りSGLT2阻害薬内服で内臓脂肪が低下するという論文で(Endocrine J. 2016 May ;63(1):53-60. )、講演会でもよく紹介させて頂いています。新しい糖尿病治療薬が出るたびに、新しいスタディーを企画して薬剤の特性や副次的作用を解明してきた兄貴ですが、食事療法の大切さを軸としていたことが分かります。カラオケにもよく一緒に行きました。兄貴は自分の講演会用の略歴にも“趣味 カラオケ”と書かれるくらい歌がお得意で、私が福岡にいたころにはチェッカーズ(福岡県久留米市出身)の星屑のステージという曲を頼んでもいないのによく歌ってくれました。これからは、ライジングスターから本当にお星さまになってしまった兄貴のために代わりに私が歌います。
2018年12月19日私の人生が一変する最悪の出来事がありました。その報告を1番にしたのは河盛隆造先生、2番目が綿田裕孝先生、そして3番目が兄貴でした。12月19日17時57分私は兄貴にこんなメールを送っています。
教授選負けちゃいました、、、。
力及ばず申し訳ありません。
今後は表舞台から姿を消して、ひっそりと暮らします。
それから数時間経っても返事が来ません。兄貴はいつもメールの返事を即返してくれていたので、おかしいなと思ったのですが忙しいのだろうと思い、パソコンを閉じて私は帰宅しました。すると翌朝、12月20日7時24分こんな返信があったのです。
冗談かもしれないと思い、先生からの次のメールを今朝まで待っていましたが、本当なのでしょうか?
先生が一番ショックなのは当たり前ですが、私も昨晩中ショックを受けていました。
一体、何が。。といった思いです。
また場所を変えた挑戦もあるかと思います。落ち着いたらまた酒でも飲みながら話しましょう。
つまり、私の負けちゃいましたメールが冗談で、その後“なーんちゃって、ビビりました?”という私の次のメールを翌朝7時過ぎまで待ってくれていたんです。私は感謝でいっぱいで涙が出ましたが、そわそわしながら次のメールを待っている兄貴の姿を想像し、笑えても来て気持ちが軽くなりました。その後も兄貴に励まされ、今に至るのですが、心残りなのは順天堂大学医学部附属静岡病院の教授になってから一度も飲めなかったことです。
兄貴の訃報を聞いた直後の2023年4月8日、第22回札幌臨床糖尿病研究会にお招き頂き、講演させて頂きました。行きの飛行機が悪天候に見舞われ、とても仕事ができるフライト状況ではなかったので、パソコンを閉じ機内のVTRを見ていたら“鬼滅の刃”が放映されていて、炎柱 煉獄杏寿郎が亡くなるシーンでした。兄貴のことと重なって泣けてきました。考えてみたら“教授”と名の付くポジションにいる我々は、鬼滅の刃の“柱”みたいなものかも知れません。三好秀明先生という北海道の柱を失った後も、我々は残された柱として兄貴の遺志を継ぎ、戦い続け護り続けなくてはいけないと強く心に誓いました。
<残心>
三好先生、今まで本当に有難うございました。
そしてお疲れ様でした。
星空から僕たちを見守っていてください。
Forever!
【残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)
【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬
【第52話】Dear ケレンディア
【第53話】高齢ダイアベティスの極意~キョウイクとキョウヨウ~
【第54話】尿アルブミンは心血管の鏡
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