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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第16話】
糖と脂の微妙な関係

2型糖尿病患者における心血管イベント抑制に、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の抑制が重要であることは第10話でも説明したとおりである。したがって、2型糖尿病患者の血管を護るためには血糖コントロールも重要であるが、脂質への介入も行うべきであることは言うまでもない。しかし、脂質への介入が糖代謝を悪化させる可能性も否めないというジレンマも、我々は知っている。
脂質代謝というのは単なるエネルギーの出し入れのみならず、細胞の機能を円滑にするための重要な潤滑油となる役割も担っている。タンパクはアミノ酸のみで存在すのではなく、脂質修飾というメイクアップを受けることで“機能できる”タンパクとして細胞の生命維持に役立っている。スタチンというHMGCoA還元酵素阻害剤は、高コレステロール治療薬のスーパースターであるが、新規の糖尿病発症を増加させることや、血糖を悪化させることも危惧されている。

スタチンによる糖尿病悪化の機序(仮説)

図に示した通り、スタチンが抑制する経路はコレステロール合成のみならず、脂質修飾の低下によるインスリン抵抗性や、コエンザイムQ10の供給不足によるミトコンドリア機能低下からインスリン分泌低下を惹起し、糖代謝を悪化させている可能性が危惧されている。また、最近ではスタチンがNLRP3 inflammasomeを活性化し、炎症性によるインスリン抵抗性を惹起する可能性も報告されている(Diabetes 2014;63:3742-7)。では、最近話題の高コレステロール血症治療薬であるPCSK9阻害剤はいかがであろう。エボロクマブ(レパーサⓇ)を用いたDESCARTESという試験のサブ解析では糖尿病の発症に影響はないとされている(Diabetes Obes Metab 2017;19:98-107)。しかし、PCSK9とHMGCRの遺伝子型と疾患発症の相関を解析すると、両者が心血管イベントは低下させるが糖尿病は上昇させるというトリッキーな報告もある(N Engl J Med 2016;375:2144-53)。詳細なメカニズムは不明であるが、スタチンに関わらずコレステロールを低下させることは糖代謝を悪化させる可能性がある。



一方、vice versa逆も真なり。糖の低下がLDLコレステロール上昇を惹起することがある。こちらも機序はまだ不明であるが、SGLT2阻害薬がLDLコレステロールを上昇させる可能性が危惧されている。図に示した通り、SGLT2阻害薬は血糖や体重を低下させるのみならず、血圧やアルブミン尿、尿酸も改善することで動脈硬化や心血管イベントの抑制が大いに期待されているが、LDLコレステロールは上昇する。

糖と脂は微妙なシーソー関係

以上より、糖と脂は微妙なシーソー関係にあることが分かる。では、糖代謝を悪化させないためにスタチンは飲まず、LDLコレステロールを悪化させないためにSGLT2阻害薬は飲むべきではないのか。答えはもちろん“NO!”だ。確かにスタチン開始後に血糖値が上昇した症例も経験あるが、スタチンは世界中で明らかに糖尿病患者の心血管イベントを抑制している。米国では糖尿病患者であるだけでLDLコレステロールが高くなくてもスタチンを内服することが推奨されている。また、第10話でお話ししたEMPA-REG OUTCOMEでもスタチンを投与し、LDLコレステロールを85mg/dLにコントロールしておけば、SGLT2阻害薬にて心血管死が有意に抑制されている。糖だけでなく、脂だけでなく、両者に目を配り“護りながら攻める”診療が患者のトータルケアに繋がる。





<残心>いまどきのちょっといい話
先日、定期券を落としました。翌朝気づきましたが、どこで落としたか記憶がなく、コートのポケットに穴が開いていたせいだろうとは思いつつ、時間になったので外来を始めました。すると、一本の外線電話が入りました。交換の人から“Iさんという方からお電話です”と言われ繋げてもらうと聞き覚えのない声のIさんが“はやかけん(福岡市交通のICカード)を落としませんでしたか?”と言ってくれました。私の定期券を拾ってくれたIさんは私の名前をネットで検索してくれた挙句、定期券に記された駅が“福大前”だったので、もしかしたらと思い大学にお電話して頂いたそうです。最寄りの交番に定期券をお届けいただき、翌日ピックアップしに行くと、Iさんは連絡先など何も告げずに立ち去ったそうです。もちろんチャージされた金額も一切使われていませんでした。いまどき昭和時代のような親切な人がいるものだと感動しました。日本、いや福岡はいいところですね~。
私は何故か落し物が返ってくる性分です。携帯電話も何度か落としましたが、トイレに流してしまったとき以外必ず戻ってきています。“日頃の行いがいいからでしょう”というと“自分で言わないように!”といつもの様に妻に叱られそうです(笑)。定期入れが古くなったので買い換えようと思っていましたが、もう少し今のまま使うことにしました。








残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト

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