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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第25話】
運動療法温故知新

“糖尿病治療の基本は食事療法と運動療法ですよ”とは誰もが知っている事実であり、糖尿病診療に関わっているものであれば、一度は患者さんに言ったことがあるセリフである。しかし、果たしてこれが実臨床で実践されているであろうか、疑問が残る。

食事療法と運動療法の指導の違い

上図を見て頂きたい。2015年の糖尿病学会の委員会報告を見ると、食事療法に比べて、運動療法が特に軽視されており、なんと約3割の患者さんが全く運動療法を指導されていないのだ。当然、全ての患者さんが運動療法を出来るわけではない。しかし、3割もの患者さんが全く指導を受けていないのは由々しき事態といえる。その原因の一つに“誰が”指導するのか?という問題点がある。上図の指導者のデータを見て頂きたい。食事療法は明らかに栄養士が担当しているにもかかわらず、運動療法は半分が医師に指導され、メディカルスタッフは特定の職種が担当していない。つまり、運動療法の指導は責任の所在がはっきりしていないのだ。また、医師による指導ほど怪しいものはない。医師が運動療法外来などという大それた別枠外来を行っているわけがなく、通常外来診療の中で“歩いてくださいね!”と一言言っているだけに違いない。つまり、特別に独自の指導体制を作成している医療機関を除いて、わが国の糖尿病診療では運動療法の指導は皆無といえる。この背景に、運動療法の指導が保険診療外であることが大きく圧し掛かっている。福大病院でもメディカルフィットネスセンターにおいて、運動療法の指導を専門家が行っているが、心臓リハビリは保険診療で賄われ、生活習慣病の運動療法は自由診療つまりは自費である。病気をした後は保険が使えるが、病気の予防は全額自腹でしてくださいという厚生労働省のメッセージがここにある。全国に1千万人以上の糖尿病患者さんがいることが話題になったが、最近報告された統計解析では、日本人男性の3人に1人が30~65歳の間に2型糖尿病を発症するという報告もある(Hu H, et al. J Epidemiol 2018, in press)。過去の糖キングでも伝えてきた通り、糖尿病が万病のもとであることを考えたら、糖尿病や生活習慣病の運動療法を保険診療で出来るようにすることは、オリンピック招致と同じくらい国民にとって重要ではないか。我々はメディウォークというライフレコーダーを用いた運動療法取り組みを行い、今年の糖尿病学会で発表をした。歩数を増やすのみならず、中強度以上の運動を行いメディウォークが万歳してくれるよう運動して頂きたい。

テルモ社 歩行強度計『メディウォーク』

“歩くことは人間にとって最良の薬である”という医聖ヒポクラテスの格言がある。その一端が、最近糖尿病治療薬として注目されているGLP-1に関与している可能性が浮上してきた。何と、運動によってインターロイキン―6(IL-6)の血中濃度が上昇すると、小腸L細胞からのGLP-1の分泌が上昇するとともに、通常では血糖を上げるホルモンであるグルカゴンを分泌している膵α細胞が、GLP-1を分泌するというのだ(下図)。

運動療法に伴うGLP-1増強作用

GLP-1はインクレチンという腸管ホルモンの一種で、我々も糖尿病の実臨床においてGLP-1受容体作動薬やDPP-4阻害薬を用いてその作用を増強し、インスリン分泌能を改善して血糖コントロールをしている。運動によってGLP-1が高まるということは、運動はインスリン抵抗性のみならずインスリン分泌能も改善している可能性がある。さらに、過去の糖キングでもご紹介した通り、GLP-1には血管保護作用やがんを抑制する可能性も基礎研究では見出されており、我々も最近GLP-1受容体作動薬が乳癌を抑制する可能性を最近見出し報告した(Iwaya C, et al. Endocrinology 2017;158:4218-4232)。もし今の時代にヒポクラテスが生きていたら“歩くことは人間にとってGLP-1作用を高める最良の薬である”と言ったかもしれない。車がない時代、現代社会と違って多くの人が歩いていたにも関わらず、この点に着目するとは流石医聖としか言い様がない。事実、身体活動が上がることで、がんを抑制できる可能性を示唆するデータもある(下図)。

1日身体活動量とがん罹患との関係

私も下野大先生もスポーツドクターの資格を頂いている旧・日本体育協会が日本スポーツ協会と名を改めた。運動が体を大きくするためではなく、文化的な側面も含めて国民の健康に貢献できる可能性が込められている。多種多様な糖尿病治療薬がある今だからこそ、最良の薬運動療法の大切さを再認識する必要がある。

最後に一点悲しいお知らせがあります。長い間日本のスポーツ医科学研究を牽引されてきた福岡大学スポーツ健康科学部の田中宏暁名誉教授がご逝去されました。田中先生はスロージョギングの生みの親であり、我々の研究や運動療法の取り組みにも多大なるご指導を頂きました。田中先生のお人柄とスポーツに対する情熱は忘れません。ご冥福を心からお祈り申し上げます。

<残心>稽古と練習はどう違うか
武道をはじめとした日本古来の習い事を学ぶとき、稽古という表現を使います。野球やサッカーは稽古するとは言いませんが、剣道の稽古をするとはよく言います。練習も稽古も英語にするとPracticeやTrainingで同じでしょう。では稽古とは一体何でしょう。実は“稽”とは考えるという意味を持ちます。したがって、稽古とは古きを考えることであり、さらに意訳すると古(いにしえ)に思いを馳せるとも言い換えられます。先人たちは何を考え現代まで受け継がれている形(かた)や教訓、文化を残してきたのだろうか。ある種の歴史ロマンを感じながら技を習得するのが稽古といえます。まさに温故知新です。医学の世界も同様に、古い文献を読み返すとそこに意外なヒントが隠れています。今流行りのインクレチンは1976年に腸管グルカゴンという名で河盛隆造先生らにその存在を指摘されていました(Vranic M, Kawamori R, et al. J Clin Invest 1976;57:245-55)。また、ヒポクラテスは“すべての病気は腸から始まる”という格言も残しており、食の大切さ、腸内細菌、腸管ペプチドの存在を指摘していました。100年後の医師やメディカルスタッフが我々の論文を読み、温故知新で糖尿病学の稽古に励んでいただけるのを期待します。

沢山の読者の皆様に支えられて第25話まで来た糖キングですが、ここで一時お休みをさせて頂きます。私が真の糖キングを名乗る資格が与えられましたら、年号が変わった最初の月から再開させて頂きます。長い間ご愛読ありがとうございました。













残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新

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