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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第14話】
メトホルミン伝説

日本のメダルラッシュに沸いたリオ・オリンピックが終わった。内村航平選手の2連覇、伊調馨選手の4連覇、また今回は惜しくも決勝で敗れはしたが吉田沙保里選手の3連覇といった長きにわたって頂点に立ち続けるものは、いつしか“伝説”と呼ばれる。実はトップアスリートのみならず、糖尿病薬の中にも長きにわたり王者として君臨し続ける伝説の薬剤がある。それはメトホルミンだ。

糖尿病治療薬の歴史


糖尿病治療薬の歴史を示した。糖キング第01話でもご紹介した通り、1921年にインスリンが発見されてから、糖尿病の科学的根拠に基づいた治療が始まった。21世紀の糖尿病診療に携わる我々は、多種多様な糖尿病薬を取捨選択し、個々の患者へのベストチョイスを提供することが可能である。しかしその多くは、ここ約20年で立て続けに臨床応用可能となった新しい薬剤であり、我々がいま糖尿病診療激動の時代に生きていることがこの図から分かる。私が医師になり糖尿病学を志した1995年は、インスリンとSU薬とビグアナイド薬(メトホルミン)しか存在しなかった。謎解きのように、ロールプレイングゲームのように薬の特性と患者象を照らし合わせながら、最新の薬剤のチョイスを楽しむことが可能になった今日だが、最も古株の糖尿病薬の一つであるメトホルミンは、今でも診療の主軸をなす薬剤であり、欧米のガイドラインでは禁忌事項がない限り絶対的な第一選択薬となっている(糖キング第12話参照)。これはまさに糖尿病界の伝説(レジェンド)であり、野球でいうと王貞治名誉監督が今でもホームラン王であり、故・稲尾和久元投手が今でも最多勝利投手となるのに匹敵する大事件と言える。

なぜ、メトホルミンがそこまで愛されるのか。まず、安価であることが挙げられる。最近の多くの糖尿病薬が1錠100~200円するのに対し、メトホルミン(メトグルコⓇ)は1錠(250mg)9.9円と破格に安く、推奨されている開始容量の500mgでも19.8円である。通常は容量調整し、1,000~1,500mg投与することが多いが、それでも39.6円~59.4円と、DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬の半額以下である。また、低血糖が単剤では少ないこと、体重増加がないこと、他剤との併用がしやすいことも特長である。糖キング第10話で紹介したEMPA-REG OUTCOMEや、第12話で紹介したLEADER試験といった昨今の衝撃的なデータにおいても、メトホルミンがベースで8割近い患者に投与されており、影の仕掛人になっていることを見逃してはならない。

さらに、メトホルミンが“beyond”な糖尿病薬であることが抗癌作用・抗腫瘍作用において注目されている。かつてから、インスリン抵抗性を改善してインスリンの血中濃度を低下させることや、AMPKを介して癌を抑制していることは知られていたが、最近さらに興味深いデータがわが国から発信された。

メトホルミンの抗癌メカニズム

大腸ポリープのポリペクトミーを施行された”非”糖尿病患者にメトホルミンを投与することで、大腸ポリープの再発が有意に抑制されたのだ(Lanset Oncol.2016 Apr;17(4):475-83)。驚くことに、この時投与されたメトホルミンの容量はなんと250mg=1錠9.9円であった。10円足らずで大腸ポリープの再発が抑制できるのであれば、糖尿病患者でなくても飲んでおきたい薬と言える。
また、抗腫瘍作用のみならず、メトホルミンがアンチエイジング薬として働いているという意見がある。ミトコンドリアは巨大なエネルギー産生工場である一方で、酸化ストレス流出庫でもあり、エイジングを促進している。太古の昔に寄生した細胞内オルガネラであるミトコンドリアは、大量のエネルギーを与えてくれる代わりに、老化という代償を科す生命の支配者であり“パラサイト・イブ”という映画がそれを絶妙に表現している。私も自身の学位論文で、糖尿病患者はミトコンドリアDNAの変異が同年代の健常人より4倍蓄積しており、糖尿病が一種の老化促進疾患であることを報告した(Diabetologia. 2002 Nov;45(11):1577-83)。メトホルミンはミトコンドリアに作用することで、肝臓からの糖の放出を抑制するのみならず、細胞内の酸化還元状態を変化させ、老化を抑制している可能性が示唆されている。

薬剤がミトコンドリアに作用する

近い将来、メトホルミンがアンチエイジングのサプリメントとして薬局で販売されたり、メトホルミンを保険診療で投与されることができる2型糖尿病患者はラッキーだ!と言われる時代が来るかもしれない(笑)。しかし、万能薬ではない。日本糖尿病学会のRecommendationに従い、eGFRを測定し、適応を守って投与していただきたい。また、合剤に含まれているメトホルミンはジェネリックのメトホルミンであることも周知いただきたい。





<残心>久保田 展弘(くぼた のぶひろ)
宗教学者の久保田展弘は私の義父です。仏教を中心に宗教学を修め、死生観とヒトの心に住む神について、広くキリスト教やヒンドゥー教といった宗教間にある考え方の違いを、旅をしながら肌身で感じ、多くの執筆を世に残しましたが、2016年7月他界されました。
義父の作品は高尚すぎて、私のような脳が半分筋肉半分化学式で構成されたものでは読解不能ですが、10年足らずの短い間家族として同じ時を過ごさせて頂いて感じたことは、“容認”という言葉が思想の根幹にあるような気がしました。自分が絶対に正しくて、相手が絶対に間違っているということはなく、ありのままの他者や自然を受け入れることが大切だと義父から学びました。ですから“○○原理主義”という押し付けの考え方を義父は嫌いました。糖尿病診療にも通じるところがあります。医療スタッフが言っていることが絶対正しくて、患者さんの言っていることが絶対間違っているのでしょうか。HbA1c原理主義や血糖原理主義になっていないでしょうか。
“安らかに”とか“お眠りください”と言った言葉が似あわない漢です。新しい世界を思う存分探検してください。Have a nice trip!


久保田展弘 著書一覧







残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
・・・次回「大規模臨床試験の影の仕事人」 2018年1月15日頃公開予定

*文章、画像等を無断で使用することを固く禁じます。

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