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JADEC(公益社団法人日本糖尿病協会)では連携手帳(第11話、第28話)や自己管理ノート(第33話)以外にもダイアベティス・ケアに役立つグッズを発刊している。我々グッズ委員会が手掛けているものとしては財布やカードケースに入れて緊急時に役立つIDカード、海外旅行に持参してもらうDiabetic Data Book(DiabeticDB01)があるが、食事療法に役立つグッズが最近発刊されて好評を博している。それが食事療法“あいうえお”“かきくけこ”“さしすせそ”の3冊だ。
“あいうえお”は読んで字のごとし、初期の基本的な食事療法についてわかりやすく解説されている。まず、食べるという事への気づきから始めることの重要性が説かれている。何も考えずに無造作に食べることが、早食いやよく噛まないで食べることに繋がっているのかもしれない。食事を頂けることに感謝し、“いただきます”という言葉の意味を噛みしめながら、エネルギーの流入に対して自分の体内の“はたらく細胞”の反応を考えながら食べれば、ゆっくりよく噛んで食べるようになり、血糖値スパイクも抑制できるはずだ。外食時の注意点、お惣菜と時短メニューのとり方工夫といった内容は、働く世代に参考になるだろう。わたしがよく説明で使っているのはP15:おやつについてのページだ。“今回血糖が悪いのはケーキ食べたからなんです”とよく言われるだろう。その時、糖尿病のある人は“ケーキなんか食べちゃダメですよ”という我々の回答を期待しているに違いない。そこで、P15“摂るタイミングが大切です”にチェックペンで線を引きながら、“ケーキは食べていいけど、タイミングを考えてくださいね”というと、言われた方は拍子抜けするとともに、ケーキは絶対ダメではないんだと理解してくれる。また、アルコールのせいで血糖が悪くなっていると家族に咎められている人には、P13を見せて“適量だったら良いですよ、おつまみも工夫してくださいね”と伝え、次のページで休刊日の考え方を学んでもらう。まるで甘いものやアルコールを推奨しているみたいではないか!と、真面目な先生方にはお叱りを受けるかもしれないが、それは違う。乖離的スティグマを払拭する方法を示しているのだ。果物が体にいいと思い込み、水代わりにみかんを食べている人にはP16の「果物」との付き合い方が有効だ。
“かきくけこ”は糖尿病性腎症のある方のための、食事療法のグッズだ。私がよく使うのはP04の腎症ステージのページだ。“透析になるのを5期とすると、あなたの腎臓は5段階の3期まで来てますよ”とP04を見せながら伝えると、真面目に食事療法に取り組んで頂けて、ケレンディア(第52話)なども飲んで頂けるケースが多い。減塩について、タンパク制限について詳細に記載されている一方、外食のとり方やコンビニ食、お酒、おやつについても禁止せず上手な摂り方が説明されており、スティグマを払拭している。しかし、腎症のある人の食事療法は“かきくけこ”を手渡しただけでは難しいかもしれない。糖尿病透析予防指導をエキスパートの管理栄養士、看護師と共に行い、腎臓を守るための食事療法を学んでいただきたい。
“さしすせそ”は斬新で革命的な食事療法の冊子だ。今まで糖尿病の食事療法は“食事制限”とも言い換えられ、食べることを抑制することに重きが置かれていたが、食べることを推奨する食事療法の冊子が“さしすせそ”である。高齢ダイベティスにとって、サルコペニアやフレイルは重要な問題なっている(Medicina 2025;62(1):104-107)。そして現代の高齢者ダイベティスの皆さんは、発症当時の数十年前には“贅沢病だ!”“不摂生だ!”“食べ過ぎ!飲みすぎ!”といったスティグマの塊を投げつけられて生きてきた。そのため、欧米食の代表である肉は“悪”だと刷り込まれている。高齢者が増えたからサルコペニア・フレイルがダイベティスで増えたのもあるが、過去の間違った栄養指導のツケが回って来たとも言えるのではないか。私がよく使うのはP10-11の表だ。これを見せて“良質なタンパクをしっかり食べてくださいね”と言うと、“肉なんか食べていいんですか!?”とか“鰻はカロリーが高いと言われて我慢していたんですよ”と嬉しそうに言ってくれる。“さしすせそ”の前半にサルコぺ二アについての解説、後半にサルコぺニア対策のための運動療法が記載されているので、こちらも併せて行って頂きたい。
これら素晴らしい食事療法の冊子をお作り頂いた清野裕理事長と木村美枝子先生をはじめとした管理栄養士の先生方に感謝するとともに、次の“たちつてと”はどんな内容であろうかと期待してしまう。また、このシリーズではないが、血糖値が高めといわれた妊婦さんのための食事療法という冊子も素晴らしく出来ているので、ご活用いただきたい。
<残心>侍タイムスリッパ―
話題の映画“侍タイムスリッパ―”を観てきました。流石、日本アカデミー賞を受賞しただけあって、良く出来ていたし面白かったです。私は剣道家であり、幼少期から祖父と一緒に時代劇(当時は“チャンバラ”と呼んでいました)を観ていたので時代劇が大好きですが、そういえば最近テレビでも映画でも少なくなってきていることに、この映画で気づかされました。また、戦うチャンバラ的なものは皆無になりつつあり、大河ドラマでも“戦(いくさ)”をしないものが増えていると思いました。戦や切り合い、立ち回りがないなら、確かに切られ役は必要なくなります。私は一剣士としてこの風潮は現代社会の危惧するべき状況と思います。戦うことがダサいとか、切磋琢磨して己を磨くことがカッコ悪いと捉え、何でもマイルドにソフトにすることが良いのでしょうか。また、インバウンドで外国の方が多数流入し、多様性を何でもありと勘違いしてる人が増え、日本人らしさとか日本人の美徳が失われつつあるのを肌身で感じています。〇〇らしいと言ってはいけない時代?では日本人の本質を失ってもよいのでしょうか。新渡戸稲造が外国人の友人に「宗教教育がないのならどのように道徳の教育を授けるのか?」と問われた際、返答できなかったことが“武士道”を書くきっかけとなったらしいです。つまり、武士道は日本人が失ってはいけないコモンセンスと言えます。
我々は日本人であり、侍・武士の末裔であることをこの映画を見てもう一度考え直して頂きたいです。最後の殺陣は最高でした。
【残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)
【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬
【第52話】Dear ケレンディア
【第53話】高齢ダイアベティスの極意~キョウイクとキョウヨウ~
【第54話】尿アルブミンは心血管の鏡
【第55話】SGLT2阻害薬 For what?第2章
【第56話】“あいうえお、かきくけこ、さしすせそ”
【第57話】JADEC連携手帳 第5版
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