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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第03話】
糖尿病と癌

糖尿病患者と聞くと、肥っていて良く食べる陽気なオッサンを、癌患者と聞くと、痩せていて食欲がなく抑鬱的な雰囲気の人といった正反対の人物像を思い浮かべるであろう。しかし、この両疾患が合併しやすいことが最近分かってきた。

糖尿病患者のイメージ 癌患者のイメージ

2013年の日本糖尿病学会の調査報告によると、糖尿病患者は非糖尿病者に比べて癌の発症リスクが約1.2倍あり、肝臓癌や膵臓癌は約2倍、大腸癌は1.4倍のリスクがあることが分かった(糖尿病56(6):374~390,2013)。また、驚くことに我が国の2型糖尿病患者の死因第1位は癌である(糖尿病50(1):47~61, 2007)。その点を考えると、糖尿病診療においてはHbA1cを躍起になって下げるよりも、定期的な癌のスクリーニングをする事のほうが患者の余命延長に繋がるのかもしれない。“血糖コントロールは完璧だったけど、最終的には癌で亡くなってしまったね”では木を見て森を見ず、患者の生活の質や寿命を確保すると謳っている糖尿病治療の目標に相反するのではないか。私は以前、癌になった患者さんからこんな事を言われたことがある“私は毎月病院に来て検査を受けていたのに、何で癌があることが分からなかったんですか?”そして、当時若輩者の私はこう答えた“私たちは糖尿病に関連することしか見ていませんからね”。今考えたら恥ずかしい限りである。その反省を生かして現在は、糖尿病外来に受診していても、市町村の癌検診は受けていただくように、そして可能であれば年に1回腹部の超音波検査は受けていただくようにしている。 何故糖尿病患者に癌が多いのか。種々の説を図にまとめてみた。


肥満・糖尿病と癌の関係

血糖コントロールを改善すると癌が減少するとか予後が改善するといったデータは報告されていないため、糖尿病の合併症として癌が発症するのではなく、糖尿病になりやすい生活習慣や体型が癌を促進しやすい素地を作っているといえる。特に、高脂肪食や運動不足から来る肥満・インスリン抵抗性とその先にある慢性高インスリン血症は主犯格といえる。インスリンは糖代謝に関わる臓器には血糖を下げるホルモンとして働くが、癌細胞や血管平滑筋細胞には細胞増殖因子として作用してしまう側面がある。高脂肪食というと、一時期ブームになった低炭水化物食が思い出される。炭水化物を極端に減らし、脂肪を摂取しようという食事は血糖を一時的に下げるかもしれないが、癌を増やしてしまう食生活かもしれない。Scienceがご理解頂けない人の、ウケ狙いのとっぴな発想は恐ろしい。世界文化遺産である和食の素晴らしさを我々は再認識するべきである。しかし私は、北里大学山田悟先生の提唱されている“理に適った”糖質制限食はmake senseと思っているので、ご興味おありの方は山田先生の著書をお読み頂きたい。


糖質背現職のススメーその医学的根拠と指針ー 山田悟著

糖尿病患者に癌が多いということは、癌を増やさない抗糖尿病薬を選択することが、糖尿病患者の余命を改善する可能性がある。現在までに、ヒトでも抗癌作用が報告されている抗糖尿病薬はメトホルミン(メトグルコⓇ)である(J Disbetes Invest, doi: 1111/jdi.12068, 2013)。メトホルミンはインスリン抵抗性を改善して血中のインスリン濃度を低下させるのみならず、直接的に癌細胞に作用して増殖を抑制することが知られている。血糖を改善するのみならず、癌も抑制し、しかも安価で体重増加がない。肥満した2型糖尿病患者には最良の抗糖尿病薬ではないか。また、運動習慣も癌を減らすことが知られている(Asian Pac J Cancer Prev. 2013;14:3993-4003)。メトグルコⓇ(250mg)は1錠10.2円だが運動は無料である。健康は財産とよく言われるが、運動は預金ではないか。毎日の一歩一歩が血糖を改善し、癌になることを予防し、将来かかる医療費のコスト・ダウンをしているといえる。慢性高インスリン血症が癌を促進している可能性はあるが、私はインスリンが要らないとは言っていない。最低限血糖値を下げるためのインスリン注射は必要で、メトホルミンをはじめとした他の抗糖尿病薬と巧みに併用し“エコ”にインスリンは使うべきである。そのためにはコストの面で他剤と併用しやすいインスリン製剤が推奨される。目前にあるHbA1cという対象に集中するあまり、伏兵“癌”に足元を救われないようにしたいものである。また、抗糖尿病薬の1錠やインスリンをはじめとした1本の注射薬の選択も、血糖降下のみならず癌抑制の観点から考え抜いて処方するべきと考える。



<残心>世界レベルの考え方とは?
我々は最近、GLP-1受容体作動薬Exendin-4(バイエッタⓇ、ビデュリオンⓇ)という抗糖尿病薬が、前立腺癌においてERK-MAPKという増殖シグナルを抑制して、癌の増大を防ぐことを発見しました(Nomiyama, et al. Diabetes 2014, in press)。“Diabetes”という雑誌は糖尿病研究における世界ナンバー1クラスの雑誌で、糖尿病学を志したものなら一度は出してみたと思うのではないでしょうか。このような一流誌に福岡大学オリジナルの論文を出せたことは至上の喜びですし、なんとこの論文がアクセプトされた翌日に、インクレチン研究の世界的権威であるトロントのDrucker先生から“Congratulations on your very nice paper”というメールを頂きました。福岡大学が世界から認められた瞬間です。しかし、論文にする以前に同データを地元のある学会で発表した際“前立腺癌なんか糖尿病患者で多くないのに研究して意味あるんですか?”と蔑視された経験が何度もありました。Drucker先生とその先生方の違いは何でしょうか。それは、インスリンやインクレチンといったホルモンやそれをミミックする抗糖尿病薬を、ただ単に血糖を下げるための道具と捕らえるか、細胞の生き死にや増殖を司る生体制御因子と捕らえるかの違いではないでしょうか。抗糖尿病薬を一つ加えることが、生体内でビリヤードのように様々な化学反応を起こしていることを考えてほしいと思います。 しかし、私は苦言を言われた先生方を恨んではいません。その先生方のお陰で我々は奮起し、ハイレベルな論文を出すことができました。これからも沢山のご批判をお待ちしております(謝)。





残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
・・・次回「大規模臨床試験の影の仕事人」 2018年1月15日頃公開予定

*文章、画像等を無断で使用することを固く禁じます。

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