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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第06話】
食後高血糖のTSUNAMI

質の良いHbA1cと血糖変動

HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は言うまでもなく最も重要な血糖コントロールの指標であるが、最近では良質なHbA1cとそうでないHbA1cの違いが血管合併症、特に動脈硬化性の大血管合併症の発症進展に大きく寄与していることが言われている。つまり、HbA1cはあくまでも約2ヶ月間の血糖の“平均値”であり、高低差が激しく血糖変動が大きい2ヶ月間も、変動の小さい2ヶ月間も、血糖の平均値が同じであればHbA1cは同じ値を示してしまう。

IDF(International Diabetes Federationのガイドラインの表紙/IDFの食後高血糖治療ガイドラインの表紙/葛飾北斎 神奈川沖波裏)

しかし、血糖変動が大きい患者のほうが、血糖変動が小さい患者よりも動脈硬化が進みやすいことから、血糖変動が小さく食後の高血糖を是正した良質なHbA1cを目指した治療が推奨されている。ちなみにこの“良質な”という言葉は、私が母と慕うJK医大のT嶋先生が発案された表現だが、ご本人は良質な血糖コントロールと元々は表現されており、良質なHbA1cとは言葉が一人歩きしていると仰っていた(笑)。いずれにしてもHbA1cの数値だけ見ていては、血糖コントロールは不十分であることに言及した“良質”という言葉は素敵な表現であり、食後高血糖がTSUNAMIのように血管をボロボロにすることはイメージしやすく、IDF(International Diabetes Federation)のガイドラインの表紙にもこのような絵が描かれている。

このTSUNAMIを表現したIDFの食後高血糖治療ガイドラインの表紙は、海外の総説では太陽と北風になぞらえた絵が描かれているが、実は私の師匠河盛隆造先生が葛飾北斎の富嶽三十六景をメンバーに見せたことで決まったらしい。なるほど見比べてみると、天才絵師北斎のTSUNAMIのほうが荒々しく血管を破壊しそうである。

日常診療において、食後高血糖はどのように捕らえたら良いのであろうか。赤い血糖プロファイル患者と青い血糖プロファイルの患者は、血糖の平均値が同じであれば、HbA1cは同じ値を示す。しかし、血糖変動の大きい赤い患者の方が動脈硬化は進みやすい。両者がいつも空腹で来院して採血をすると、赤い患者の血糖のほうが良いと錯覚してしまう。私は受診の際、いつも通り食事をして薬を飲んでインスリンを打って食後の血糖を包み隠さず見せてくださいと、患者にお願いしている。しかし、こうすると受診日のみ少なく食事をして来る患者が出てしまう。そこで私は、尿糖のチェックを自宅で行う事を勧めている。尿糖の簡易検査試薬は一般の薬局でも販売されている。こちらを購入頂き、週に2~3回夕食後の尿糖をチェックするだけで、食後の高血糖をチェックし自己血糖測定をしていない患者でも日々の血糖変動を自覚し自戒する事ができる。

ウリエースKC 尿糖・尿たん白・尿潜血の検査用

また、あまりHbA1cに大きく影響しないグリニド薬やαグルコシダーゼ阻害薬といった食後高血糖に特化した薬剤を開始した際、薬を飲むときと飲まないときで食後尿糖をチェックし、患者に効果を実感していただく事にも役立つ。SGLT-2阻害薬(糖キング第4話参照)の最大の欠点は、私のこの食後高血糖自己チェックシステムを台無しにすることである。

しかし!本当に食後高血糖を制することが患者の血管を護るのであろうか?実は確固たる介入研究のエビデンスは不十分のまま、状況証拠と理論武装とが過大になっているところもある。そもそも食後高血糖が注目を集めたのはDECODE study(Arch Intern Med. 2001; 161:397-405)で糖負荷試験の2時間値の高値が空腹時血糖の高値よりも心血管疾患死の有意な予測因子であった事に端を発している。しかし、この結果はあくまでも相関があるというだけで、実際に食後高血糖に介入したものが予後良いというデータではない。STOP-NIDDM(JAMA. 2003; 290:486-94)は食後高血糖を示す境界型糖尿病(IGT)にαグルコシダーゼ阻害薬を投与すると、糖尿病の発症のみならず心血管イベントの発症も予防できたことを報告したが、果たしてこれが“食後高血糖の是正”によるものなのか“早期介入”によるものなのかは明らかでない。また、何故慢性持続性の高血糖よりも断続的な高血糖のほうが血管を傷害するのかも不明な点が多い。慢性的な高血糖では抗酸化能が予め基礎レベルで上昇されているが、断続的な高血糖ではその備えがなくノーガードでパンチを打ち込まれる状態になってしまうことを示す報告があるが(Am J Biochem Biotech. 2007; 3:16-23)、その後進展がない。

では、食後高血糖など是正する必要はないのか?私はそうは思わない。なぜなら重要な間接的証拠が数多く報告されているからだ。その一つが酸化ストレスだ。食後高血糖は酸化ストレスを発生し、確実に患者の全身を蝕んでいる。また、酸化ストレスはインスリン抵抗性やインスリン分泌低下を惹起し、更なる高血糖を生み悪循環を形成する。

食後高血糖による血管合併症促進の悪循環

長い間放置しても駆除しても病気が発生するかわからない害虫も、確実に毒を発生する事がわかっていたら即駆除するべきであろう。また、食後高血糖への介入は、わが国の糖尿病診療が細部まで行き届き肌理細やかであることを示している。持続血糖モニター(CGM)を研究はもちろん、臨床にも数多く応用している国は少なく、まさに血糖職人の技である。“食後高血糖の是正にはエビデンスがない”などと、低レベルな議論は止めて、血糖の波をいかに美しく仕上げるかという職人肌のプライドを持った診療がしたい。

最後に、TSUNAMIという表現に東日本大震災を連想された方が居られましたら陳謝し、一日も早い復興を心からお祈り申し上げます。

[ 参考 ]

*International Diabetes Federation:
GUIDELINE FOR MANAGEMENT OF POSTMEAL GLUCOSE

*IDF 食後高血糖治療ガイドライン:
太陽と北風

*葛飾北斎:
神奈川沖浪裏(1831-1835)パブリック・ドメイン

*ウリエールKc:
テルモ株式会社

*食後高血糖による血管合併症促進の悪循環:
月刊糖尿病 5(12): 20-24, 2013



<残心>コングレスバックは必要か?
先日ある学会に参加しましたら、超ド派手なコングレスバックを頂きました。関西のオバちゃんでも遠慮しそうなバック、中年男性の私が持っていたら若作りしている“チョイ悪オヤジ”です。そもそも、コングレスバックは必要なのでしょうか?私は10前後の学会会員になっており、年間5~6回の学術集会に参加しますが、毎回オリジナルのコングレスバックを頂きます。学会中は皆で同じバックを持って一体感か何か味わえるのかもしれませんが、終了後は不要になります。また、学会に芸能人や女子アナを登場させる必要があるのでしょうか。それにかける費用の分、年会費や参加費を安くするか、海外からのスピーカーを増やしていただけるとあり難いです。数年前、ADA(米国糖尿病学会)に参加した時、当科の女医さんが“お土産にバックとか欲しいですっ!”と不思議な事を言うので、帰国後ADAで頂いたコングレスバックを差し上げました。おそらく彼女は免税品のブランド物のことを言っていたのでしょうが、、、。コングレスバックの有効な使用方法を見出しました。





残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
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【第04話】糖毒性という名のお化け
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【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
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【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
・・・次回「糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話」 2017年11月15日頃公開予定

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