医療人として | 糖尿病の治療について | 糖尿病についてのコラム | プロフィール
わが国の糖尿病患者さんの死因アンケート調査の最新データが発表された(糖尿病 59(9):667-84, 2016)。第1回から第4回までの結果を当科の高橋弘幸先生がグラフにしてくれると、よくわかる事実がある。
悪性新生物、つまりがんで亡くなる糖尿病患者さんが軒並み増えていることだ。糖キング第03話でもふれたように、以前からがんは糖尿病の重要な合併症であることは知られており、前回調査でも死因の第1位を占めていた。しかし、今回の結果ではがんによる死亡がさらに上昇し、約4割の糖尿病患者さんが、がんで亡くなることが示され、なんと60代では約半数の糖尿病患者さんが、がんで亡くなっていた。この事実を重く受け止め、糖尿病とがんの研究を推進し日常臨床におけるがんの発症進展予防策に早急に取り組む必要性がある。今回の調査で、第1位が悪性新生物であったが、第2位が感染症であったことから、私は検診の受診を勧めるとともに、高齢者には5年おきの肺炎球菌ワクチンの接種を強くお勧めいている。
図に示したわが国の糖尿病患者さんの死因の推移をみると、がんが増えたという事実は同時に、血管疾患で亡くなる患者さんが減ったということの裏返しであるとも考察できる。一般人と比較してみると、糖尿病患者さんは血管障害で亡くなる人がむしろ少ないことも分かった。
特に心筋梗塞などの虚血性心疾患や脳血管障害といったいわゆる大血管障害で亡くなる方が少ないという結果は、わが国の循環器内科医、脳神経内科外科医の先生方が優れていることを示すとともに、糖尿病で定期的に通院していることが、いざという時のイベント発症時に速やかに対応でき、一命をとりとめることができるとも言える。いわゆる“一病息災”という言葉を表す結果である。慢性腎不全で亡くなる方は一般人の1.5倍といまだ多いが、糖尿病患者が増えているにもかかわらず、糖尿病腎症による透析導入は頭打ちになっていることから、今後はこちらも減少していくであろう。すなわち、我々は糖尿病血管障害を克服したという勝利宣言とも捉えられる。同様の現象は海外でも報告されており、2型糖尿病患者さん血管イベントによる死亡は減少し、健常者とほぼほぼ同等にまで近づいてきている(N Engl J Med 2017;376:1407-1418)。
一方、がんで亡くなる糖尿病患者さんは一般人より約1割多い。当然、ヒトはいつか何らかの理由で死ななくてはならない。医学が進歩し、糖尿病患者さんが血管障害で亡くならなくなった代償として、相対的にがんによる死亡が増えているだけとも言えるが、糖尿病患者さんでは健常人に比べて寿命が男性で約8年、女性で約11年短いということから、我々が患者さんのがんを見落とし死に至らしめてしまったという非常にネガティブな見方もできる。
確かに、頸動脈エコーや脈波伝導速度(PWV)・上腕足関節血圧比(ABI)の測定といった血管の評価は、いまや糖尿病診療のルーティーンになりつつあるが、がん検診の受診や腹部の超音波・CT、腫瘍マーカー・便潜血の検査などは糖尿病診療においてほとんど行われておらず、場合によっては保険で査定されてしまう始末だ。今回のような調査の結果に、即当局は対応をすべきであり、糖尿病患者におけるがん検索を推進することが、未来の医療経済を護ることにも繋がると私は考える。最近の論文で、1996年から2013年までの間米国で最も医療費を投資した疾患は糖尿病であるということが示されている(JAMA. 2016;316(24):2627-2646)。○○ファーストで打ち出す経済政策の中に、糖尿病とその病態から引き起こされる多種多様な合併症の早期治療介入を加えるべきかもしれない。
<残心>錬士(れんし)
最近、剣道錬士という称号を頂きました。本職では“准教授”という肩書から年寄り扱いされている私にとって、錬士という称号はまだまだこれから鍛錬する若者のような気分になり、新鮮で嬉しいものです。剣道には錬士・教士・範士という三つの称号が段位とは別に設けてあり、剣士としての位を表しています。段位が剣道の技術のレベルを表しているのに対して、称号は人格者としての度量を表していて、人間形成の道である剣道においては段位よりも称号が重要視されることが多いのです。概ね、六段になると錬士、七段になると教士、八段で範士の称号を受験する資格が得られます。つまり、六段以上でないと剣士とは認められないともいえるわけです。六段以上は高段者であり、20年以上は修業が必要でしょう。医学部を卒業後10年足らずで“専門医”になれる医学界に比べて、高段者になってやっと錬士である武道の世界は奥が深いです。最速最短で専門医を取得して何の意味があるのでしょうか。
【残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)
【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬
【第52話】Dear ケレンディア
【第53話】高齢ダイアベティスの極意~キョウイクとキョウヨウ~
【第54話】尿アルブミンは心血管の鏡
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