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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第23話】
ミトコンドリア・ルネッサンス

“パラサイト・イヴ(1997年)”という映画を観た方がおられるであろうか。当時、トレンディ俳優と呼ばれていた三上博史さんや葉月里緒菜さんが主演のサイエンス・ホラー映画で、ミトコンドリアが独自の意思を持ち生態を乗っ取り、暴走するという内容だ。実は作者の瀬名氏もミトコンドリアの研究者であり、随所に科学的根拠に基づく描写がちりばめられた作品となっている。

パラサイト・イヴ

私もミトコンドリアに興味を持ち、いくつかの研究を行ってきた。ミトコンドリアと糖尿病の研究が隆盛を誇った一時代が過ぎ、ミトコンドリアの研究は一時期下火になっていたが、新たな作用機序の薬剤が登場することによって、ルネッサンスを迎える可能性が見えてきた。

そもそもミトコンドリアは、太古の昔に真核生物に寄生した細胞内オルガネラであり、まさに我々の細胞にとっては“パラサイト(寄生生物)”である。その証拠にミトコンドリアは独自のDNAを有しており、二重膜構造の外膜は寄生された細胞の細胞膜と同じ構造をしているが、おそらく寄生前から元々所有していたのであろう内膜は、全く違う構造をしている。ミトコンドリアは高率にATPを産生し、我々にエネルギーを供給してくれる超高性能発電所であるが、同時に酸化ストレスをリークすることで細胞障害やDNAの変異を惹起し、細胞レベルのエイジングも促進してしまう。ミトコンドリア研究でご高名な日本医科大学老人病研究所太田成男先生にご指導ご協力いただいた私の学位論文では、糖尿病患者さんでは同年代の糖尿病でない人に比べて、ミトコンドリアDNAの後天的な変異が4倍蓄積しており(Diabetologia 2002;45:1577-83)、糖尿病によるミトコンドリア機能障害がエイジングを促進していることが分かった。また、この変異の蓄積は頸動脈肥厚とも相関していた(Ann NY Acad Sci 2004;45:1577-83)。さらに、ミトコンドリアからの酸化ストレスのリークが糖尿病血管障害の重要な分子メカニズムであることが、熊本の西川武志先生によって解明されている(Nature 2000;404:787-90)。ミトコンドリアと糖尿病に関する研究は、ミトコンドリアDNAの変異(3243A→G)が糖尿病の原因遺伝子あることから始まり、上記のような酸化ストレス、血管合併症を司る因子としても研究され、さらに滋賀医科大学森野勝太郎先生はインスリン抵抗性にも関与していることを報告されている(J Clin Invest 2005;115:3587-93)。単なる細胞内オルガネラであるはずのミトコンドリアは、我々にATPを供給してくれているのみならず、代謝疾患や血管疾患、エイジングを司り、宿主であるはずの我々の生命予後を決めているのかもしれない。また、最近は精神的ストレスに対する応答もミトコンドリアがハンドルしているという説もあり(Psychosom Med 2018;80:126-40)、にわかに“パラサイト・イヴ”がフィクションでなくなりつつある。腸内細菌の研究が大流行した時も同様のコンセプトが提唱されたが、もしかしたら我々はミトコンドリアによって生かされ、生命体としての予後も決められているのかもしれない。

では、糖尿病診療においてミトコンドリアを助け、友好な関係を築くにはどのような方法があるだろうか。ノイキノンⓇというミトコンドリア機能を完全する薬剤が、心不全の薬として臨床応用されているが、糖尿病薬としては良い結果が得られていない。また、サプルメント的に発売されているミトコンドリアを元気にする製品は医学的科学的な効果は立証されていない。第14話で多少触れたが、糖尿病治療薬のレジェンドであるメトホルミンは、ミトコンドリア機能を改善する可能性も多少報告されている。しかし、最近開発されたイメグリミンという薬剤は、直接ミトコンドリアを助けることによって、酸化ストレスのリークを改善し、インスリン抵抗性を改善することが報告された(Diabetes 2015;64:2254-64)。

イメグリミンのインスリン抵抗性改善作用

また、ミトコンドリア糖尿病ではインスリン分泌能低下が中心病病態であるように、膵β細胞はその活動に必要なエネルギーの大部分をミトコンドリアから産生されるATPに依存していることから、ミトコンドリア機能を改善することで、インスリン分泌能を改善することも報告されている(Diabetes Obes Metab 2015;17:541-5)。さらに、まだ報告はないが我々や西川先生の研究結果から考えると、イメグリミンは糖尿病血管合併症も改善するかもしれない。またさらに、我々が最近研究している糖尿病と癌の関係にも、ミトコンドリアが重要な役割を担っている可能性も示唆されている(Front Endocrinol 2018 https://doi.org/10.3389/fendo.2018.00211)。ミトコンドリア機能改善という新たなメカニズムを用いて、インスリン分泌能、インスリン抵抗性、血管合併症、癌といった糖尿病にまつわる全ての病態を改善してくれる可能性があるイメグリミンに注目が集まらないはずがない。まさに“ミトコンドリア・ルネッサンス”である。来年もしくは再来年に、グルカゴン・ルネッサンスに続いてミトコンドリア・ルネッサンスという言葉が流行した時には思い出してほしい。糖キングで最初に言われたフレーズであることを。

<残心>ミトコンドリアは何色か?
ミトコンドリアは何色でしょうか?このような質問に、多くの人はミドリと答えるでしょう。おそらく“ミトコンドリア”というスペルと“ミドリムシ”というスペルが似ているために混同し、緑色というイメージがついているのでしょう。ですから、ミトコンドリア機能改善をうたっているサプルメントのパッケージの多くに、緑色の楕円形をしたミトコンドリアらしきイラストが記載してあります(笑)。実際には細胞内オルガネラで膜成分が多いミトコンドリアは無色透明か、鉄(Fe)を多く含むため赤褐色をしているのではないかと言われています。少なくとも緑色は間違いです。第一話でも触れたようにインスリンとインシュリンの違いや、テレビに出ている“医学博士”という肩書の先生方が必ずしも全員医師免許を取得しているとは限らないことなど、一般の皆さんが誤解する医科学表現は世の中に沢山あります。口から入った酵素やタンパクは、全て消化酵素で粉々になってから吸収されることをご理解ください。 もし、赤褐色のミトコンドリアのイラストや電子顕微鏡のミトコンドリアの画像をパッケージに示したサプルメントがあったら、それは効くかもしれませんね。













残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新

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