糖尿病専門医・指導医 野見山崇 | 糖尿病についてのコラム

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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第59話】
腫瘍糖尿病学

“腫瘍糖尿病学”とは聞きなれない言葉であろう。第18話でも述べた通り、わが国の糖尿病のある人の死因第1位は悪性新生物つまり“がん”である。第18話の図に第5回の死因アンケート調査の結果(糖尿病67(2):106-128,2024)を加えると、さらにがん死が増えていることが分かる(図1)。この図を講演会でお示しすると「糖尿病のある人が長生きするようになったからがん死が増えてるだけではないか!?」というご意見を頂くが、それは違う。近年、日本人一般では悪性新生物による死亡の割合は減少しているにもかかわらず、糖尿病のある人では増えている。これは、最近の糖尿病の病態が“がん促進的に働いている”可能性を示唆する事実といえる。さらに、B型肝炎やC型肝炎が治癒できるようになった昨今、肝臓がんの一番のバックグラウンドとなっている病態は糖尿病+脂肪肝となることが考えられる(Am J Gastroenterol. 2012;107:253-61)。

糖キング第58話「12th JADEC年次学術集会」 野見山崇

図1 我が国の糖尿病のある人の死因の推移

そんな時、腫瘍糖尿病学Q&Aという本の執筆依頼が来た。中心となっておられる編者は国立がん研究センター中央病院大橋健先生だ。大橋先生は糖尿病とがんと共に生きる多くの人の血糖管理をされていて、糖尿病とがんの臨床に造詣が深く、私も講演会や学会のシンポジウムでご一緒させていただいた経験のある先生だったので、二つ返事でお引き受けさせて頂いた。私に与えられたパートは得意分野のGLP-1受容体作動薬だったので、ここぞとばかりに自らの研究結果を誇張して執筆し、糖尿病治療薬のがん抑制作用の可能性を示した。数か月後、本が出来上がり、出版社から送られてきた献本の一冊を読んで唖然とした。自分の浅はかさが恥ずかしくなった。この本の神髄は“究極の禅問答”だったのだ。もちろん、糖尿病とがんが併存しやすい病態やメカニズム、スクリーニング検査やがん検診を受けることの重要性など一般的なことも書かれている。しかし、本書の最も重要な点は“終末期のがんのある人に、どこまで食事療法を強いて、血糖コントロールするべきか”であった。この問いには正解もエビデンスもない。通読して今私が思っていることは、人生の目標が人それぞれであるように、終末期の人の血糖コントロールの目標も人それぞれではないかという事だ。そしてそれは、ヒトはいつか死ぬという自明の理に立ち返ると、がんの終末期ではない糖尿病と共に生きる人の血糖管理にも応用できる。“血糖管理は人生設計です”と毎週のように講演会で言っている自分の言葉をもう一度一から考える必要があると反省させられた。本書の中で、本書の中で、私が最も感銘をうけた一説は308ページの「好きなものをなんでも食べていいですよ」という言葉は患者を傷つけ、生きる意欲を低下させる可能性があるという部分だ。

糖キング第59話「1こういうときはこうする!腫瘍糖尿病学Q&A がん患者さんの糖尿病診療マニュアル第2版」 野見山崇

<残心>津山洋学資料館
岡山県津山市に中島病院という伝統と格式がある素晴らしい病院があります。その病院の五代目・中島弘文先生とはとても気が合い、家族ぐるみのお付き合いをさせて頂いています。今年の7月に講演会に呼んで頂いた際、旅行もかねて妻と一緒に津山に行きました。飛行機のスケジュール上、講演会まで時間があったので、どこかお勧めのスポットはありますか?と中島先生に尋ねると、津山洋学資料館を勧められました。最初に聞いた時は“洋楽?”と思い、Van Halenが来日した際のギターでも飾ってあるのかと思いましたが、とんでもありません。洋学とはいわゆる蘭学のことでした。津山では幕末の鎖国時代から西洋医学や蘭学を取り入れて学んでいたそうで、なんとここには“解体新書”の本物も展示されています。どおりで、津山を訪れるたびに感じていたのですが、決して都会ではないけど整然としたインテリジェンスの高い街だなと思っていました。時代背景から、順天堂の学祖・佐藤泰然先生とも何らかの関係があったかもしれません。中島先生のお計らいで、館長様直々に館内をご案内頂きました。館内を視察させて頂き、深く感銘を受けたのは“命がけで学ぶ”という事です。当時津山で、多くの化学用語が日本語訳されました。例えばOxidationは酸化などです。なるほどと思われるかもしれませんが、実はこの日本語訳することの真意は幕府からの弾圧を逃れるためだったそうです。オキシデーションという西洋言葉を使っていたら拘束されてしまうから、あえて日本語を当てていたそうです。 医学に携わる人は佐倉順天堂記念館同様、津山洋学資料館を訪れてください。背筋がピッと伸び、AI論文を書こうなどという姑息な邪念は消え失せるでしょう。






残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬
【第52話】Dear ケレンディア
【第53話】高齢ダイアベティスの極意~キョウイクとキョウヨウ~
【第54話】尿アルブミンは心血管の鏡
【第55話】SGLT2阻害薬 For what?第2章
【第56話】“あいうえお、かきくけこ、さしすせそ”
【第57話】JADEC連携手帳 第5版
【第58話】12th JADEC年次学術集会
【第59話】腫瘍糖尿病学
【第60話】2025th WDD

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