
医療人として | 糖尿病の治療について | 糖尿病についてのコラム | プロフィール

毎年11月14日はWorld Diabetes Day(WDD)である。第1話で紹介したインスリンの発見者の一人である医師Frederic Grant Banting(1891~1941年)先生の誕生日が11月14日であることから、この日がWDDとなった。そのため、毎年11月にはJADECや全国のLCDE(地域の糖尿病療養指導士/Local Certified Diabetes Educator)団体でダイアベティス(糖尿病)に関するイベントが行われる。今年2025年の11月は、JADECが企画する2つのWEB講演会に出演させて頂いた。
一つ目は11月16日に行われた“かえよう糖尿病”という企画だ。この企画は“ひとりで「頑張る」だけじゃ、血糖値は下がらないかも”というサブタイトルが付いているように、“ダイアベティスは自己責任”、“血糖コントロール悪化は努力不足”という間違った認識を改め、ダイアベティスのある人が医師に治療方針の相談や血糖コントロールの先にある人生の夢を自ら語り、前向きにダイアベティスと共に歩む人生を送って頂こうという企画で、そのツールとして我々は“話そうシート”なるものを作成した(図1)。このシートを用いて血糖コントロールの先にある目標を、担当医と共有して頂きたい。WEB講演会は看護師でアナウンサーの山本舞衣子さんの司会の下、清野裕理事長がダイアベティスへの呼称変更のお話をされ、私がダイアベティスの病態と治療の解説と“話そうシート”の紹介をし、田中永昭先生がスティグマの話をされた。なんと2,000人を超えるご視聴を頂き、私の知る限りJADECのWEB市民公開講座史上最多である。私も講演会のたびに宣伝をしたが、最も視聴者を獲得したのは新聞広告であった。我々医療者よりも、非医療者の方がダイアベティスに関心を持たれていることが伺える。

図1 ダイアベティス(糖尿病)話そうシート
もう一つは11月30日に行われた“シン・ダイアベティス”というWEB市民公開講座だ。TBSラジオ「こねくと」と共催で行われたこの企画は、清野理事長の座長の下、タレントの関根麻里さん、「こねくと」のパーソナリティの石山蓮華さんをゲストに迎えて行われた。まず感心させられたのは、関根さんと石山さんのダイアベティスに対する理解の早さだった。9月13日の打ち合わせを兼ねた予告放送の収録時と比較して段違いに知識が増えていて、この間猛勉強されたことが分かる。きっと芸能界で長く活躍される人は陰で並々ならぬ努力をされているのであろう。テレビで“庶民派”とか“おバカタレント”として出ている方々は、色々と勉強して本当は知識があるのに庶民派のふりをしたり、おバカなふりをして、我々はその術中にはまって楽しませてもらっているだけかもしれない。この時ご講演頂いた中央大学教授の飯田朝子先生のお話はまさに目からウロコだった。言語学者である飯田先生は、我々医療者とは別角度から呼称変更を解説された。糖尿病という病名・呼称は我が国で135年間使用されてきた。そしてこの長年使われてきた呼称を変更(リネーミング)するためには“変換コスト”という障壁が生じるそうだ。そして、糖尿病からダイアベティスへの変換は、音と表記の変換コストが非常に高い。例えば、看護婦→看護師、痴呆症(ちほうしょう)→認知症(にんちしょう)のような変換は、同じ表記や音が重なっており、変換コストは低いといえる。糖尿病からダイアベティスへの変換コストを減らす方法として、略称をつくることとキャラクターで早期定着させることをご教示いただいた。ダイアベティスはダイア・ベディスで切れるので、ダイアを利用して💎(ダイヤモンド)に関するキャラクターを作るなどだ。今後のアドボカシー活動に取り入れるとともに、飯田先生にはいつかJADECの学術集会や勉強会でご講演頂きたい。
WDDの貴重な経験を糖キングに書こうと決めて執筆していたら、令和6年(2024年)国民健康・栄養調査の結果が発表された。糖尿病が強く疑われる者が約1,100万人で、前回の平成28年の報告より100万人増えている。重要な結果だが、こちらは我々糖尿病専門医の肌感覚で予測可能な範囲内であった。しかし、衝撃なのは次のデータだ。糖尿病を指摘されながら治療を受けていない人の割合は前回調査(第26話)より増えていて、男性は26.9%、女性は39.5%、男性の30代~40代は半分以上、女性の30代は9割以上が治療を受けていない(図2)。2019年にアドボカシー委員会が立ち上がったにも関わらず、効果が出ていないことが露呈されてしまった。
もう一度気合を入れ直して取り組まなくてはならない。
今回の二つのイベントのスポンサーをして頂いた日本イーライリリー株式会社、田辺ファーマ株式会社、帝人ファーマ株式会社の皆様に心から感謝します。

図2 「糖尿病を指摘されたことがある者」における治療の状況
<残心>とっさの判断
最近立て続けに2回の航空トラブルに遭いました。
一度目は2025年11月29日熊本県薬剤師会の先生方に講演に呼んで頂いた日のことです。ANAのエアバスA320系のトラブルがあり、予定していた熊本行きの飛行機が欠航になりました。この日の早朝、品川に向かう新幹線内で欠航を知らせるメールを受信したのですが、すぐに機転を利かせて福岡行きの飛行機に変更し、福岡から九州新幹線で熊本入りして無事講演を終えることが出来ました。
二度目は12月12日の大雪です。札幌(新千歳)経由で根室中標津に飛ぶ予定でしたが、新千歳に着いた時に根室中標津行きが欠航になったことを知り、しぶしぶ羽田に引き返そうとしました。ところが、羽田行きも欠航が相次ぎ帰れなくなりました。札幌でご開業の丹羽祐勝先生に連絡し、おすすめのホテルを教えて頂きましたが、JRも高速道路も止まって札幌までたどり着けません。米国留学中にダラスの空港で一夜を過ごした日のことが脳裏によぎりましたが、当時は30代で今は55歳です。路頭に迷いそうになった時、妻が新千歳空港温泉の存在を教えてくれました。ホテルではありませんがお風呂に入り、食事を摂ってビールが飲め、休憩できます。この時のジンギスカン定食の味は忘れられません。翌日の羽田行きは終日満席です。ここでも機転を利かせて釧路経由で羽田に戻り、ポイントでアップグレードも出来てプレミアムクラスでゆっくり帰れました。持つべきものは良き妻とマイレージですね(笑)あたふたしているときに、丹羽先生が「晩飯付き合いますよ!」とメールをくれたことにほっこりしました。感謝します。
【残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)
【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬
【第52話】Dear ケレンディア
【第53話】高齢ダイアベティスの極意~キョウイクとキョウヨウ~
【第54話】尿アルブミンは心血管の鏡
【第55話】SGLT2阻害薬 For what?第2章
【第56話】“あいうえお、かきくけこ、さしすせそ”
【第57話】JADEC連携手帳 第5版
【第58話】12th JADEC年次学術集会
【第59話】腫瘍糖尿病学
【第60話】2025th WDD
【第61話】GLP-1RA vs. SGLT2Iどっちが血管保護してる?
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