
医療人として | 糖尿病の治療について | 糖尿病についてのコラム | プロフィール

2017年9月にトリセツ(第20話)を執筆した際、「もう二度と自著は書かない」と心に決めたはずだった。それほど、診療と研究と講演の合間に一冊の本を書き上げるというのは苦行に近い作業だった。義父(久保田展弘)が生前、「物書きだけで生活するのは大変なんだよ」とぼやいていたことが身に染みたはずだった。しかし今回、第2弾とも言える自著“今日から迷わない ダイアベティス(糖尿病)治療薬ファースト&セカンドチョイス処方術”を執筆し、2026年5月発刊の運びとなった。

金芳堂さんから最初にお話を頂いたときは、半分以上お断りするつもりだった。トリセツ執筆の経験から、自著の執筆は記念碑的なものにはなるが実利が少なく、大学病院に勤務しながら出来るものでは到底ないと悟ったからだ。教授の激務をこなしながら何冊も本を執筆されている東邦大学の弘世貴久先生はまさにスーパーマンである。しかし、金芳堂さんからお話を頂いた際に、かなり自由度を上げて“野見山流”を前面に出して書いていいと言って頂いたので、55歳の記念碑として重い腰を上げて執筆することとした。考えてみればトリセツを執筆した2017年頃は人生のピーク第一波とも言える時期だったかもしれない。それから一度奈落の底に落ちて、母校からセカンドチャンスを与えられ、やっと元の位置まで這い上がってきた感がある今、新しい記念碑を立てても良いと考えた。人生最後の記念碑が福岡大学の野見山では格好がつかないので、順天堂大学の野見山という記念碑を立てたかったとも言える。執筆を終えた今の心境はインド映画の“バーフバリ”かな(笑)
本書は4つの章に分かれている。第1章は糖尿病診療の一般的なことを、学生さんや研修医、メディカルスタッフの皆さんでも分かり易い形でまとめた。糖のながれを中心とした糖尿病の病態、糖尿病診療に関わる検査、糖尿病の合併症と併存疾患を解説し、最後にアドボカシー活動について現状と私見を混ぜ合わせて記載した。第1章は教科書的な要素とともに、ご専門の先生方やエキスパートのCDEの皆さんにも確認事項としても使って頂きたい。アドボカシーの部分は、アドボカシー委員会のメンバーとして熱量を持って執筆した。私の知る限り、本書は“ダイアベティス(糖尿病)”という表記を最初にタイトルにした書籍であると自負している。本書の根幹をなしているのが第2章と第3章で、肥満と非肥満に分けて症例ベースで糖尿病治療薬のファーストチョイス、セカンドチョイスを具体的に挙げてその意図を細かく解説した。主には日本糖尿病学会のアルゴリズム(糖尿病66(10):715~ 733,2023)に則った形にしているが、所々に筆者ならでは変化球を加えている。実は、最初に金芳堂さんから執筆を依頼されたときは“糖尿病ドリル”という仮のタイトルが付けられていた。小学生の時に勉強した漢字ドリルや算数ドリルの様に、症例別にフローチャート式に1剤目・2剤目・3剤目と足していく形式を考えていたが、取り留めのない記述になりそうであったのと、主に非専門の先生方や若い先生方に読んで頂きたかったので、セカンドチョイスまでにして、薬剤選択の理念の解説を充実させた。本書には所々にCOLUMと題して私のつぶやきやボヤキともいえる内容を記載している。糖のながれの継承者として、インスリンの発見者の一人であるチャールズ・ベスト(第1話)の孫弟子として、安直な方向に流されつつある昨今の糖尿病治療薬選択に本音で意見させて頂いたので是非読んで欲しい。第4章は高血圧症や脂質異常症といった、糖尿病に併存しやすい疾患に対する私なりの治療ストラテジーをまとめた。私は糖尿病については専門医であるが、高血圧や脂質異常症は専門医ではないことと、あくまでも“糖尿病に併存した”場合の治療ストラテジーあることをご理解頂いた上で、参考にして頂ければ幸いである。参考文献も適宜引用した。前述の通り、若い先生や非専門の先生を対象としているので、基本的には英語の原著論文ではなく私が信頼している先生方がまとめられた日本語の総説を引用している。原著論文が読みたくなった方は孫引きをして読んで頂きたい。最後のページの著者略歴は、通常ドヤ顔やキメ顔の写真が出されるが、本書では似顔絵にした。作画してくれた本名 葵(ほんな あおい)ちゃんは私の姪っ子で中学生である。髪の毛の天然パーマ具合がよく書けていて気に入っている。

“推薦のことば”は愛知医科大学の神谷英紀先生にご執筆頂いた。神谷先生は私と違って真面目で紳士的で、あまり感情を出したり酔っぱらって説教をしたりするタイプではないが、この推薦のことばを拝読させて頂いて胸が熱くなった。神谷先生が“同士”という表現をして下さっているのに感銘を受けた。これからも日本糖尿病学会中部支部長の神谷先生を支えて中部地区を盛り上げたいという意志を再度固めた。
本書にはある“仕掛け”が施してある。謎解きをするためには2回通読する必要があるが、糖キング読者の皆さんには先にお伝えしたい。“おわりに”の“残心”の部分を読んだ後に巻頭から読み始めると、答えに近付くことができる。答えが分かった方は筆者の私にお伝え頂きたい。答え合わせをしましょう。本書に今現在私の持っている全ての“術”を書き込んだ。若い先生方には本書に書かれた術を修得し、練って高めて未来の糖尿病診療(ダイアベティス・ケア)を発展させて頂きたい。
もし次に自著を書く機会があるとしたら10年後、65歳で定年する頃であろう。その頃にもまだ一冊書き上げるだけの体力が残っているのか不安であるが、10年のわが国のダイアベティス・ケアがどうなっているのか楽しみでもある。
最後に、本書作成に多大なるご協力を頂いた金芳堂の西堀様と河原様に深く感謝申し上げます。
<残心>町立中標津病院
北海道の道東にある中標津町という町の町立中標津病院に、月に1回糖尿病外来をしに伺ってます。私の記憶が正しければ2014年に初めて講演会でお呼び頂いたのが最初で、その頃は感謝状まで頂きました。それ以来、当時の内科医長であり現在院長の久保光司先生に毎年講演に招聘頂いているとともに、家族ぐるみのお付き合いをさせて頂いてます。最初に「中標津から講演依頼です」と住友ファーマ(当時の大日本住友製薬)の担当者からお話を頂いたときは、九州から道東までかと驚きましたが、義父が若い頃にシマフクロウの保護活動をしていた地域という御縁もあり、家族旅行を兼ねて行ったのがきっかけで、コロナ禍の数年を除いて毎年講演に呼んで頂き、今では毎月外来診療をさせていただき、年に1~2人の若い先生が中標津病院から順天堂大学静岡病院に研修に来てくれています。北海道には釧路市を境にそこから東に糖尿病専門医がいません。ですから私が中標津病院で診察している皆さんは、1型糖尿病であっても、私が初めて会う糖尿病専門医で、大変喜んでくれます。第60話に書いた飛行機トラブルがあった次の月には「今月は先生が無事に来られてよかった」と喜んで頂けます。大学病院に居ると、教授やセンター長といった肩書の中での仕事が中心ですが、ここでは“ただのお医者さん”として診療に当たれることがなんとも心地よいです。静岡東部もそうですが、本当に糖尿病専門医を求めている地域が日本中にまだ沢山あります。都心に集中して利便性と利益のみを追求することに囚われている糖尿病専門医の皆さん、糖尿病のお医者さんとして満たされる診療を地方でしてみませんか?

【残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)
【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬
【第52話】Dear ケレンディア
【第53話】高齢ダイアベティスの極意~キョウイクとキョウヨウ~
【第54話】尿アルブミンは心血管の鏡
【第55話】SGLT2阻害薬 For what?第2章
【第56話】“あいうえお、かきくけこ、さしすせそ”
【第57話】JADEC連携手帳 第5版
【第58話】12th JADEC年次学術集会
【第59話】腫瘍糖尿病学
【第60話】2025th WDD
【第61話】GLP-1RA vs. SGLT2Iどっちが血管保護してる?
【第62話】ダイアベティス(糖尿病)治療薬 ファースト&セカンドチョイス処方術
【第63話】SURPASS-CVOTの結果を深読みする
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